札幌の街が凍てつくような元旦の朝、どこからかアナウンスが鳴り響く。
「ピコリーナ・カンパニー発! 一点モノのアパレル初売り、開始ですわ! 数量限定、まさかの福袋企画!」
「……ひっ……あれ、わたしの……作った服……なのに……!」
震えるのはキリ。自作したアパレル作品を、営業部のクロエが独断で“福袋”にして販売を始めてしまったのだ。
「なに言ってるのキリちゃん。これ、“怨念がこもってるのにかわいい”って、去年のテスト販売でも大ウケだったじゃない」
「夜に作ったものだから……夜の気配が染みてるの……夜の気配は……人に不幸を……!」
「それが逆にいいのよ! “闇かわ”ってやつ! 今のトレンドよ!」
クロエは、完璧な営業スマイルで語る。
「見て見て、このスカジャン、背中に“未練”って刺繍されてるのよ。“元カレの悪霊がついてる”って噂になったやつ!」
「……それ……本当にいるの……別れたあと……刺繍の中に……」
「でしょ!? 話題性バツグン! それをあえて着ることで、今の自分に決別できるってわけ。つまり、令和の厄落としファッション!」
そこへひとりの客がやってきた。
「え、これ、ガチで呪われてる服って本当ですか?」
「そうですわよ! しかも、この赤いスカートは“見た人が全員一歩引く”っていう静かな霊障つき!」
「最高じゃん! 就活で落ち着いた印象出したいから、こういう“控えめな呪い”ってありがたい」
「でしょ? じゃ、Mサイズで!」
「……怖く……ないの……?」
「こわいよ? でもさ、服って、たまには“なにか背負ってる”ぐらいがカッコいいんだよ。なんていうか、気合い入るじゃん」
客の言葉に、キリの幽霊のような顔が、すこしだけ柔らぐ。
「……着てくれる人が……覚悟してくれるなら……ちょっとだけ、夜も……こわくないかも……」
「よしよし、キリちゃん。今年の目標は、“あえて呪うアパレル”でいきましょ!」
その夜、完売した福袋のいくつかから、「うめき声がする」というクレームが出た。
だがなぜか、すべて返品ではなく、**「レビューが☆4.8」**だった。
「“毎晩話しかけてくれる”“布が勝手に動いて肩を揉んでくれる”とか、感動レビューついてるわよ!」
「……ちょっと……やさしい……つもりで……つけた……」
「だーいせいこう☆」
──こうして、ピコリーナ・カンパニーの“呪われアパレル”は、札幌初売りの伝説となった。
教訓:トレンドは、霊障の向こう側にある。