札幌の冬空は冴え渡り、会社のビルも白く染まっていた。
年明け早々、駅前の神社では初詣のにぎわいが続いている。
そんな中、ピコリーナ・カンパニーの開発部、ヨモツとネロは境内の屋台に釘付けになっていた。
「ほう……これは……矢か。狩りの道具にしては細いが、意味があるようだな」
埴輪のような無表情でヨモツが破魔矢を手に取る。
「これは“破魔矢”といって、邪を払うための神具です。初詣の縁起物ですよ」
説明したのはネロ。金髪のポニーテールを揺らしながら、興味深げに矢を観察していた。
「ふむ、形は洗練されている。が、効力は心許ない……改良の余地、ありまくりだな」
「では、やってみましょうか。破魔“兵器”という新カテゴリ、いけそうです」
ヨモツとネロの目が光った。悪い予感しかしない。
その日のうちに、開発部の工房では【強化破魔矢】の試作が始まった。
矢じりは黒曜石、弥生の技術で硬度と刺突力が増し、ネロの魔力で自動追尾と厄年ターゲット機能が付加された。
完成したそれは、どう見てもただの兵器だった。
「これが……“破魔矢・プロトタイプ改”か」
「略して“破魔プロ改”。いい響きですね」
二人は満足げだったが、問題はその後だった。
試しに工房で射った矢は、壁を貫通し、隣室のセラス(筋肉エルフ)に命中。
無表情で受け止めたセラスが、「少し厄が落ちた」とぼそりと呟いた時点で、事態の異常さが明らかになる。
「やばいってこれ! 神社で使ったら祟られるってレベルじゃないよ!!」
千歳が駆け込んできて、ほぼ絶叫していた。
その手には、神社から送られてきた破魔矢の残骸。ピコリーナの印がついていた。
「さっきの試作品、誰かが神社に奉納したっぽいんだけど!? 鳥居、崩れてるって!!」
「……祭神の浄化、成功ということですね」
「神すら清める力……やはり進化しました」
「反省して!!!」
最終的に、破魔矢・プロトタイプ改は工房の地下倉庫に封印された。
ネロは「元カレ追尾機能だけ残したい」と言い、ヨモツは「矢じりに名前を書け」と謎のこだわりを見せていたが、千歳の鉄拳によって開発中止が言い渡された。
「正月くらい、普通に過ごして!!!」
怒鳴る千歳の背後で、封印箱の中か「破魔……マ……」という不穏な声が聞こえたのは、気のせいだったと信じたい。