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第32話 四天王、終結す

「……で、魔王。どうやってこのビルのトイレ掃除をするわけ? なんだかんだで結構あるし、回数も必要よ?」


千歳が問うと、すかさずクロエが身を乗り出した。


「なんという口答えを魔王様に向かって……ッ!」


「落ち着けクロエ。余はかまわん」


魔王はドシンと腰掛け、うやうやしく頷いた。


「この口まで悪い人間の娘は、今は上司だからな。それを決めたのも余だ。口を挟むな」


「……魔王様がそうおっしゃるのであれば。このクロエ、全力でサポートいたしますわ!」


「ならぬ。クロエは営業広報が仕事だ。自分の責務を果たせ」


「ハハッ!」


やってることだけ見ると王政復古の忠誠劇だが、内容はどう見てもトイレ掃除である。


「……あの、ほんとに魔王でいいの?」


千歳が生暖かい目を向けると、魔王はふむと腕を組んで言った。


「千歳とかいったな。胸だけが取り柄の人間の娘よ。円滑に仕事をするため、四天王を呼んでもかまわぬか?」


「呼んでもいいけど、暴れたりしないでしょうね?」


「それはない。……たぶん」


「たぶんて言ったー!!」


とはいえ、背に腹は代えられない。千歳は渋々許可した。


魔王は立ち上がると、床にスッと指を滑らせ、魔法陣を描く。


「──応えよ、我が配下!」


ビカァァァァッ!!


まばゆい光とともに、ド派手な衣装を着た四人の人物が現れる。


「我が四天王が一人、水の魔導士・ミズリー!」


「風の精霊使い・カザミ!」


「火の呪術師・ホムラ!」


「そして……毒と微生物の支配者・クサレ!」


「魔王様! ご復活おめでとうございますッ!」


「ウム。早速だが、やってもらいたいことがある」


「はっ!」


「その千歳とかいう顔面偏差値高めの人間と雇用契約を結べ。任務は──便所掃除だ」


「「「「……は?」」」」


あまりに予想外の指令に、四天王たちは一瞬時が止まったが、すぐにピシィッと敬礼。


「ハッ……雇用契約、承知いたしましたァ!」


「みんなノリいいな!」


千歳は困惑しながらも、魔王に言う。


「いや、でもこんなコスプレ軍団に掃除させたら……トイレ入ったお客さん卒倒するわよ」


「問題ない。こやつらは人間の姿になることなど容易い」


「そういう設定だったの!?」


そして、魔王はすかさず仕事の割り振りを始める。


「ミズリーは、すべての配管の流れを完璧にする。詰まりとは永遠におさらばじゃ」


「了解。水圧三倍モード、実装済みです」


「カザミは、排出後に最適な風を吹かせる。心地よい爽快感を演出せよ」


「任せてください。ローズの香りと共に、微風でお尻をスッと包みます」


「ホムラは便座を温める熱魔法。冷え性対策は重要だ」


「極暖便座モード、起動しましょう。安全設定は10段階あります!」


「そしてクサレ。お前は……」


「殺菌担当であります!除菌率99.999%保証しますッ!」


「……え、ちょっと待って。これ、もしかして一度整備したら、超快適になるのでは?」


千歳がぽつりとつぶやくと、魔王はニヤリと笑った。


「そう。四天王の術式を組み合わせれば、一度の手入れで五日は自動清掃が可能となる」


「五日……すごっ!」


「だが、床や鏡の磨きは人力だ」


「なんでそこだけ!? 魔法でやってよ!」


「それでは“心”がこもらぬ」


「心いらないよ!!」


四天王たちは各階層に散っていき、光の柱がビル内を縦断する。


ミズリーが配管に微笑みかけ、カザミが香りを乗せて風を送り、ホムラが便座に手をかざし、クサレが小瓶をぶちまけるたび、トイレが神殿へと変貌していく。


「──かくして、魔王と四天王による、便所革命が始まったのである……」


「いやナレーション風に言われても困るわよ」


「クロエ。余は完璧な仕事を遂行する。誇りを持て」


「はいっ、魔王様ッ!」


「……だめだこの組織。誰も突っ込まない」


雪まつりの喧騒の陰で、ピコリーナ・カンパニーのトイレは異常進化を遂げた。


こうして、世界一豪華なトイレ清掃部隊が誕生する──!


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