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第40話 異世界埴輪完成!

社長室のドアが――爆発音とともにぶち破られた。


「社長ォォォオオオ!! ついに完成したぞォオオ!!」


轟音と共に現れたのは、弊社きっての埴輪狂、弥生時代からタイムスリップしてきた男――ヨモツである。


「あーはいはい。今度はなに? 喋る埴輪? 踊る埴輪? それとも爆発するやつ?」


私はもう動じない。なにせ昨日は『電子レンジに入れると異世界に飛ぶ埴輪弁当箱』を開発していた。電子レンジ壊れたし。


「違う! これは真面目なやつ! 時空埴輪の進化系、その名も――《異世界埴輪》だァァ!!」


バァァン!!と得意げに見せつけられたのは、耳にパラボラ、腹に時計、背中に天球儀という、どう見てもごちゃ混ぜな埴輪だった。


「やかましいわ!! 異世界ラジオと宇宙の香りがするんだけど!?」


「これに乗ればな……! 元の世界に帰れる!! 俺も! お前らも! ついでに埴輪も!!」


「埴輪は元からこっちにいるよ! いやでも……本当に? すごいじゃん、ヨモツ!」


私は思わず立ち上がった。もしかして、これって、ほんとに夢が叶ったってやつじゃない? 異世界人たちを“帰す”という私の目標が、ついに……!


「この功績、完全に俺が寝てる間に降臨した“星の神”のおかげだな!」


「星の神いたの!? てか働いてたの!? てか私、昨日それ見たような気がするけど記憶の彼方なんだけど!」


そんなツッコミも空しく、社長室に星の神らしきものがモヤっと浮かぶ。


《……週一で働いてます……報われません……》


「え、じゃあさ、レミット!」 


私は受付から呼び出した呪われし姫巫女レミットに声をかける。


「……タロット占いの最中ですが……なんでしょう……」


「この埴輪、元の世界に帰れるって! よかったね!」


レミットは一瞬無言で埴輪を見つめた後、ぼそぼそと呟いた。


「……どうでしょう。今の方が幸せな気がしますが……」


「うん? え?」


「だって皆さん優しいし……働けば三食昼寝付き、住むところもあって、安定した生活が保証されてて……呪いも、なんとなく軽くなってきた気がしますし……」


「え!? 今うちの会社、“天国”って言った!?!?」


思わず叫んだ私の背後では、キリが半透明になりながらパンケーキ食べてるし、ダークエルフたちはワッフル機フル稼働してるし、セラスは筋トレしながらティータイムしてるし。


「ちょっと待って。誰も帰る気ないの!?」 


「……私は……ここが気に入っております……」とレミット。


「いやそれ嬉しいけど!! なんか違う!! 帰りたい人いないの!? あっ、魔王、あんた元いた世界に帰りたいでしょ?」


社内が静まり返る。そして魔王は冷静に


「いや、別に。よく考えてみよ。帰ったら勇者に襲われるんだぞ? 面倒くさくないか?」


確かに。常に命狙われてるのは嫌だなぁ。


「じゃあ勇者。あんたは帰りたいでしょ? 魔王倒すのが使命だよね?」


「いやぁ、最初はそうだったけだけどよく考えたら俺それが本当にやりたいことだったのかわからなくなって。別に俺じゃなくてもよくね?って最近思ってる。なんなら魔王と手を組んでこの安定した毎日をぶち壊すやつを倒したいほどだ」


勇者エリオス、迷いなき瞳で語る。


「……勇者やめる気満々じゃねーか!」


思わず私は机に頭を打ちつけた。パソコンの液晶に「ERROR」と出た。気持ちもエラー中だわ。


「……で、他には? 帰りたい人、いませんかぁぁーーーっ!? ほら、ヨモツ作ったんだよ!? この異世界埴輪、まじで時空越えるんだよ!? パスポートいらないよ!?」



返ってくるのは、静寂。


ダークエルフのひとりが挙手したかと思えば、


「すみません、異世界帰還って……ご飯ついてますか?」


「出ないよ!? 異世界は寮付きじゃないし、飯も三食バイキングじゃないよ!? てかここが異常なだけ!!」


別のダークエルフが呟く。


「帰ったらまた、エルフ同士で戦争ですよ……嫌ですぅ……」


「はい、そりゃそうだよね! エルフ戦争よりも、パンケーキ祭りのほうが平和だもんね!」


私は振り返る。


セラスが筋肉でパンケーキの生地を泡立てていた。


「筋力で全部解決しようとするな!!」


……気づけば、みんなもうこの世界に根付いていた。異世界埴輪が象徴する「帰る場所」より、いまこの会社が「居場所」になってる。


それって、ちょっと嬉しいけど……ちょっと寂しいじゃん。


「社長……」


ヨモツがぽつりとつぶやく。


「やっぱ……これ、いらなかったか……?」


「いや、ヨモツ……」


私はそっと彼の肩に手を置く。


「その埴輪、すごいんだよ。たぶん、みんなが“帰りたい”って思ったその時に、一番必要になるの」


「……ほんとか? 飾りとして喫茶部に持ってかれてないか?」


――そのとき、ドアがバンッと開く。


「ヨモツさーん! その埴輪、メニュー立てにしてもいいですかぁ?」


(byダークエルフNo.14)




「やめろって言ってんだろォォォォ!!!」



ヨモツの悲鳴が社内にこだまする。私は静かに、異世界帰還計画ファイルを閉じた。


──異世界から来た社員たちが、自分で「ここにいる理由」を見つけたのなら。


それは、たぶん“帰還”よりも、すごい奇跡かもしれない。


……というわけで。


異世界埴輪は本日より、「喫茶ピコリーナ」の季節限定プリン試食投票箱になりました。泣くな、ヨモツ。お前の功績は、社員の胃袋に刻まれてる!


というかさ。私の目標なくなったんだけど。 


第三部。完。

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