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第41話 新たな目標

──第三部、完。


……じゃねぇよ!!


「完じゃない! 完じゃないからなっ!」


社長室の静寂を引き裂くように、私は机をバンッと叩いた。


可哀想なデスクは悲鳴のような音を上げている。さっきからごめんね。


「……冷静になれ、私。落ち着いて、整理しよう」


異次元に吸い込まれた彼らは、自分の力では帰れない。


けれど、私が出した“求人票”に応募してくれれば、こっちの世界に来ることはできる。


つまり、私は異次元で迷子になった人を唯一、安全に“呼び出せる”存在ってことだ。


そして、その人がうちで働いてくれたら──


「異次元転移埴輪でご帰還!! ってわけだよね!」


思わず立ち上がる。これは……これはすごい!


「……これ、よくない!? いや、めっちゃよくない!? 完璧な異世界回収&帰還サイクルじゃん!」


私は興奮のまま、開発部へと突入した。

あの、元・弥生時代の埴輪職人(現・開発主任)──ヨモツに話をするために!


「ヨモツ、聞いて! これ、革命だよ! 完璧なシステムに気づいちゃった!」


彼は素焼きの壺に足を突っ込みながら、いつもの無表情で答える。


「……いや、その埴輪、帰れるの三分間だけだぞ」


「さんっ……ぷん……?」


「うん。三分後には、またこっちに戻される」


「短っっっっ!!」


「ていうか最初に言ったよな。“短いからクレーム来るぞ”って」


「……聞き流してた。いや、今聞いたわ! てか、三分って、コンビニのカップ麺より短いんですけど!?」


「あと、帰れる場所も選べん」


「いやもうそれほぼ意味ないじゃん!!」


「完全ランダム。たとえば、“あ、ここは実家の近くだ……川の匂いが……懐かし……あっ”って言ってる間に、タイムアップ」


「……道の駅のソフトクリームより短命!!」


私はその場でうずくまった。


……ほんとに、誰も帰りたがってなくてよかった。


あんな“バグ寸前の呪いの埴輪”を本気で使ってたら、帰還どころか精神崩壊まっしぐらだよ……。


私はそっと開発部を後にした。


帰還計画、完全にご破算。


けど、まぁ……命があるだけマシってことで。



「……もう、なんのためにここまで頑張ってきたんだろ、私……」


私はデスクに再び顔を沈めた。


モニターの中のExcelは「ERROR」と叫び、私の心も同じ画面を表示していた。


「……困ったもんじゃのう」


横で茶をすすっているのは、我が社の守護神──リィナ。


神の威厳をまといながら、くつろぎすぎである。


「まるで職を失った商人のようじゃ、千歳。どこぞの大金持ちに拾われて、無職で遊び暮らすでもなければ、立ち直れぬのではないか?」


「別に金持ちになりたかったわけじゃないしさ……」


──そうだ。


就職活動で全敗して、何もできなくて、それでもここまで来たのは……


「誰かを元の世界に帰す」って、目標があったから。


その目標が消えた今、ぽっかり空いた心をどうしていいのか分からない。


「……あ、ちなみにハクジョウ曰く、今年度の営業利益は50円だったらしいぞ」


「えっ!? ちょ、待って!? 50円!?!?」


「毎回ビルが壊れるじゃろ。大地の神が来た時も床の修繕費がな……。

埴輪も、あちこちで毎日爆破しておるし」


「それ地味に大問題では!? えっ、赤字どころか、存在してるのが奇跡の会社なのでは!?」


「まあまあ、それはさておき──」


リィナはスッと茶菓子をつまみながら、何気なく言う。


「隣のビルが、売りに出されておった」


「へぇ、不動産も厳しいんだね……って、何?」


「買っておいたぞ」


「はぁあああああああああああ!?!?!?!?」


「5億じゃ」


「いやいやいやいや!! 何考えてんの!? 桃鉄じゃないんだから!?」


「神のオーラを見たら、不動産屋がひれ伏しておったのでの。割とスムーズにいった」


「そういう話じゃないっての!! てか、ビル増やしてどうすんのよ!!」


「神殿に立て直すつもりじゃ。転職ができる神殿じゃ」


「それ、ただのハローワークだよね!?」


はぁ……。


もうやだ……でもなんか笑えてきた……。


私はまた、デスクに顔を沈めた。


Excelも、私も、神も、埴輪も、だいたいバグってるこの会社。

けれど、こんな会社があっても……まぁ、悪くないかも。



というわけで、第三部。本当に終わり!

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