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第09話-右目(マクシム視点)

 ノンナが御者控え室で縫い物を始めたころ。


 ソフォスアクシ公爵嫡子マクシムは、数人の側近と共に学園にいた。

 そのひとりであるサンディの様子に再び違和感を覚えた。落ち着かず、しきりに辺りを気にしている。


「今日もか?」

「はい。そして、昨日は遠ざかっていましたが、今日は近くに居ます」


 サンディの返事は短い。しかし、その目には緊張と期待が混ざり合っていた。


 マクシムは、昨日のことを思い出した。


 ***


「どうした?」


 マクシムが尋ねると、顔を紅潮させたサンディは眼帯に触れながら答えた。


「……説明しづらいのですが、右目の奥が反応しているような感覚がありました。温かい何かが……すぐ近くに」

「右目……ということは?」

「はい。おそらく……私の能力に対応する精霊眼の所持者です」


 サンディの声はわずかに震えていた。彼自身も、この感覚をまだ掴みきれていない。


「方向を見定める前に、遠ざかってしまいました。でも……確かに、私の力と引き合う何かがあったんです」


 サンディの指が眼帯をかすかに掴む。3年ほど仕えたサンディがこれほどまでに焦燥を露わにするのを、マクシムは初めて見た。


「学園内で反応があって、遠ざかったのなら、何か手がかりがあるはずだ。入退出名簿を確認しよう」


 マクシムはすぐに門番へ指示を出し、正門と通用門の名簿を調べさせた。


「確認しました。フォートハイト伯爵家の側近の女性が、その時間に通用門を通過しています」

「フォートハイト伯爵家……ボエアリス侯爵家と関わりのある家か」

「はい、公爵閣下が要注意リストに挙げていた家門です」


 サンディが息を詰め、低く呟く。ずっと顔が紅潮している。


「亡き父から教えられた『精霊眼の対の目である感覚』を初めて実感しました」


 ***


 対の目の能力を持って生まれたために、サンディは理不尽な暴力で殺されかけた。

 ドンネステ博士が語った赤子サンディ救出の話を、マクシムは父親から聞いた。

 同じ話を、もちろんサンディは育ての親である博士から聞いている。




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