正月三が日が過ぎた。
日常が戻ってきたが、翔太の訪問は正月休み中も続いていた。
元日も二日も、親戚が帰った後に現れた。
「おばあちゃん、今年もよろしく」
翔太の年賀の挨拶には意味深長な響きがあった。
手渡された年賀状。
表面は普通の挨拶だ。
しかし、裏面を見て茜は息を呑んだ。
小さな文字でびっしりと想いが綴られている。
『今年こそ、おばあちゃんに振り向いてもらえますように』
『毎日会えますように』
『ずっと一緒にいられますように』
まるで恋文のような内容だった。
茜は年賀状を仏壇の引き出しに隠した。
処分すべきだと分かっている。
しかし、できない。
一月半ば、翔太の学校から電話があった。
欠席が続いているという。
茜は青ざめた。
「今日も来てるの?」
夫が新聞を読みながら聞いた。
「いいえ……」
その日、翔太は来ていなかった。
不安になった茜は、翔太の携帯に電話した。
「もしもし、おばあちゃん?」
翔太の声は明るかった。
「翔ちゃん、学校は?」
「……行ってない」
「どこにいるの?」
「駅前」
茜は息を呑んだ。
「すぐに学校に行きなさい」
「おばあちゃんに会いたい」
「ダメよ。学校に行って」
「じゃあ、放課後に行く」
電話は切れた。
茜は受話器を握ったまま、しばらく動けなかった。
事態は深刻になっている。
翔太の執着は日に日に強くなっていた。
夕方、約束通り翔太が現れた。
制服は着ているが、鞄を持っていない。
「学校、行ったの?」
「……」
翔太は答えなかった。
代わりに茜をじっと見つめる。
その視線に茜は恐怖を感じた。
「翔ちゃん、このままじゃ留年よ」
「構わない」
「何を言ってるの」
「おばあちゃんがいれば、他は何もいらない」
狂気じみた言葉だった。
しかし、翔太の表情は真剣そのものだ。
「私のせいで、あなたの人生を狂わせるわけにはいかない」
「狂ってない。初めて本当の自分になれた」
翔太は茜に近づいた。
茜は後ずさりする。
「お願い、正気に戻って」
「これが正気だよ」
翔太の手が茜の手を掴んだ。
強い力で握られる。
「離して」
「嫌だ」
その時、玄関が開く音がした。
翔太は舌打ちして手を離した。