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第10話 ばらばら

二月に入った。


受験シーズンの真っ只中だが、翔太は完全に勉強を放棄していた。


学校からの連絡は亜希子に行っているはずだ。


しかし、亜希子からは何も言ってこない。


ある日、翔太が来た時、顔に青あざがあった。


「どうしたの、それ」


「……転んだ」


嘘だと分かった。


亜希子と何かあったのだろう。


「本当のことを言いなさい」


「母さんと喧嘩した」


翔太はあっさりと認めた。


「学校のことで?」


「それもある。でも……」


翔太は言いよどんだ。


「でも?」


「おばあちゃんのことを言われた」


茜の心臓が跳ねた。


「何て?」


「異常だって。気持ち悪いって」


亜希子は何かに気づいたのか。


母親の直感は鋭い。


「それで手が出たの?」


「向こうが先に叩いてきた」


翔太の目に怒りが宿っていた。


「おばあちゃんのことを悪く言うなんて許せない」


茜は複雑な気持ちになった。


自分のために母親と争う孫。


これは健全な家族関係ではない。


「もう来ちゃダメよ」


「なんで」


「家族がバラバラになる」


「もうとっくにバラバラだよ」


翔太の言葉は冷めていた。


十七歳とは思えない諦観が滲んでいる。


「このままじゃ、進級も危ないって言われた」


翔太はソファに深く沈み込んだ。


「それでいいの?」


「おばあちゃんがいない将来なんて意味ない」


また同じ言葉だ。


茜は頭を抱えた。


この子はどこまで本気なのか。


そして、自分はどこまで責任があるのか。


「私のせいで、あなたの人生を台無しにしないで」


「台無しじゃない。初めて生きてる実感がある」


翔太の目は輝いていた。


狂気的な輝きだ。


茜は恐怖を感じると同時に、どこか惹かれている自分もいた。


ここまで愛されること。


執着されること。


それは老いた身には毒のような甘さだった。

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