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第11話 亜希子の訪問

数日後、亜希子が血相を変えてやって来た。


「お母さん、翔太に何かしました?」


単刀直入な質問だった。


「何もしてないわ」


「嘘! あの子、お母さんの名前ばかり呼んでる。寝言でも」


茜の背筋が凍った。


寝言でまで呼ばれているのか。


「それに、お母さんの写真を部屋に飾ってる。異常よ」


「写真?」


「家族写真じゃない。お母さんだけが写ってるやつ」


いつ撮られたのか。


茜は恐怖を感じた。


知らないうちに写真を撮られていたのか。


「亜希子、翔太くんは今、不安定なの。優しく見守って」


「見守る? このままじゃ留年よ!」


亜希子は泣き出した。


「もう遅いかも……退学するって言い出してる」


強気な娘が泣いている。


それを見て、茜も涙が出た。


「ごめんなさい」


「何で謝るの?」


「私が……私が甘やかしたから」


半分本当で、半分嘘。


真実は言えない。


言えるはずがない。


亜希子は泣きながら続けた。


「最近、あの子おかしいんです。部屋に籠もって、独り言ばかり。食事もろくに取らない」


「独り言?」


「お母さんの名前を呼んで、まるで会話してるみたいに」


異常だった。


完全に常軌を逸している。


「私、どうしたらいいか分からない」


亜希子の肩が震えていた。


茜は娘を抱きしめたかった。


しかし、できなかった。


自分にその資格があるのか。


「専門家に相談した方が……」


「もう行きました。でも、本人が来ないと」


翔太は病院にも行かないのか。


事態は想像以上に深刻だった。


亜希子が帰った後、茜は一人で泣いた。


どうしてこんなことになったのか。


最初はただの避難所だったはずだ。


それがいつの間にか、歪んだ愛情に変わっていた。


そして、自分もそれを完全に拒絶できなかった。


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