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第12話 3月

三月になった。


桜の蕾が膨らみ始めている。


翔太の行動はさらにエスカレートしていた。


朝起きると、庭に翔太がいることがあった。


じっと家を見つめている。


「翔ちゃん!」


窓を開けて叫ぶと、翔太は微笑んだ。


「おはよう、おばあちゃん」


「何してるの?」


「会いたくて」


異常だった。


完全に常軌を逸している。


茜は着替えて外に出た。


「家に帰りなさい」


「もう少し」


「翔ちゃん!」


茜が強く言うと、翔太は悲しそうな顔をした。


「おばあちゃんは、俺のこと嫌い?」


「嫌いじゃない。でも、これは異常よ」


「愛することが異常?」


翔太の目に狂気が宿っていた。


いや、狂気ではない。


純粋すぎる愛情が、狂気に見えるのだ。


「朝ごはん、食べた?」


話題を変えた。


「食べてない」


「じゃあ、少し食べてから帰りなさい」


結局、甘やかしてしまう。


突き放せない自分が嫌になる。


家に入れて、簡単な朝食を用意した。


翔太は美味しそうに食べる。


まるで、これが最後の食事かのように。


「学校は?」


「もう行ってない」


「翔ちゃん……」


「いいんだ。どうせ留年だし」


投げやりな口調。


「母さんに退学させてくれって頼んでる」


「亜希子さんが許すはずない」


「だから毎日喧嘩してる」


茜は胸が痛んだ。


しかし、後悔は感じられない。


「後悔しない?」


「しない。おばあちゃんに会えるなら」


食後、翔太はなかなか帰ろうとしなかった。


「もう帰りなさい」


「まだいい」


「ダメよ」


押し問答が続く。


結局、昼過ぎまでいた。


翔太が帰った後、茜は疲労感に襲われた。


これがいつまで続くのか。


そして、自分の心の中にある感情。


孫に執着されることへの、暗い悦び。


それは日に日に大きくなっていた。


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