ある夜、茜の夫がこんな事を言う。
「最近、翔太がよく来るな」
「ええ……」
「あいつ、大丈夫か?」
夫も何かを感じ取っているようだった。
「学校にも行ってないらしいじゃないか」
「……そうみたい」
「お前、何か知ってるか?」
鋭い質問だった。
茜は動揺を隠そうとした。
「知らないわ」
「本当か?」
夫の目が探るように茜を見る。
長年連れ添った夫だ。
嘘は見抜かれているかもしれない。
「翔太の様子がおかしいのは確かよ」
「それだけか?」
茜は答えられなかった。
夫は深いため息をついた。
「亜希子も心配してた。翔太がお前の話ばかりすると」
「……」
「まさかとは思うが」
夫は言いかけて、首を振った。
「いや、なんでもない」
しかし、疑念を抱いているのは明らかだった。
その夜、茜は夫の寝顔を見つめた。
この人に真実を話したらどうなるか。
理解してくれるはずがない。
誰も理解などしてくれない。
孫が祖母に恋をする。
祖母がそれを完全に拒絶できない。
異常な関係だ。
しかし、翔太の想いは本物だった。
そして、自分の中にも確かに何かがあった。
それが何なのか、認めたくなかった。