四月に入った。
新学期が始まったが、翔太は留年が決定していた。
学校には一切行かなくなった。
「もうすぐ誕生日だ」
翔太が呟いた。
「十八か……」
「そうしたら、全部自分で決められる」
茜は不安を感じた。
翔太の目に宿る決意が怖かった。
「まさか退学するつもり?」
「するよ」
即答だった。
ある日、茜が買い物から帰ると、翔太が家の中にいた。
リビングのソファに座っている。
「どうやって入ったの?」
「窓が開いてた」
嘘だ。
茜は戸締りを確認していた。
「不法侵入よ」
「家族なのに?」
翔太の理論は破綻していた。
しかし、本人は本気だった。
「合鍵を作った」
翔太がポケットから鍵を出した。
茜は愕然とした。
いつの間に。
「返しなさい」
「嫌だ」
「翔ちゃん!」
「おばあちゃんの家は俺の家でもある」
狂っている。
完全に狂っている。
「これ以上続けたら、本当に警察を呼ぶわよ」
「呼べばいい」
投げやりな態度。
もう失うものはないという顔。
「そうしたら、全部話す。俺がおばあちゃんを愛してることも」
脅迫だった。
茜は言葉を失った。
その時、玄関が開いた。
夫が帰ってきたのだ。
「翔太? 何してる」
「おじいちゃん……」
翔太は一瞬たじろいだが、すぐに平静を装った。
「遊びに来ただけ」
「そうか。でも、もう遅いぞ」
夫は何も気づいていない様子だった。
しかし、茜と翔太の間の異様な空気を、感じ取っていないはずがない。
翔太はすぐに帰っていった。
しかし、合鍵は返さなかった。
茜は恐怖に震えた。
いつ侵入されるか分からない。
鍵を変えるべきか。
しかし、それをしたら翔太はどうなるか。
より過激な行動に出るかもしれない。