ざわついた学校の教室内、馬場 悠太の席の前に
「ちょっと、聞きたいんだけど!」
「へ、あ? 俺にか?」
「あんたの目の前に座ってるんだから当たり前でしょう」
「てか、そこの席は佐々木のだけどな」
「あ、ごめんなさい。除けるけど! って、話逸れてるわ。あのさ」
朱はささっと席の左側に立ち上がった。
「あーすいませんでした。だから、なんだよ」
「中島 颯真いるじゃない。私、匂うのよ」
「は? あいつ、別に臭くないって」
「そういうことじゃなくて、なんか変なんだって!」
「ん? どういうことよ」
「ここじゃ埒が明かないわ。こっち来て!!」
朱は悠太の腕をぐいっと引っ張って、教室の外へ連れて行った。一緒に会話していたほかの男子はその様子を見て、口笛を吹いた。
「悠太が女子と話すの珍しいなぁ。新しい彼女か?」
「まさか、そんな顔してなかったぞ」
「だよなぁ。んじゃ、どんな関係?」
「さぁ?」
2人は顔を見合わせて、不思議そうに悠太と朱の後ろ姿を目で追いかけた。そこへ後ろの出入り口からトイレから戻ってきた颯真は疑問符を頭に浮かべて席に戻る。
なんで、悠太が朱といるんだろうと一瞬気になったが、どうでもいいやと気にもせず、耳にワイヤレスイヤホンをはめて、好きな音楽を聴き始めた。
屋上に行く途中の階段で、息を荒げて、走るのをようやくやめた朱が話し出す。
「この間、ここで颯真が何か喋ってたの」
「は? 誰と?」
「1人? うーん……1人じゃなかった? でも人は誰もいなかった気が……」
「ん? あいつ、中二病?」
「ううん。違う……」
朱は颯真がいた場所である屋上の扉を開けた。顎に手をつけて、少し考えてから思い出す。
「確か、黒い飛んでるものと話してた気が……そう、風見鶏についてるコウモリ! あれよ、あれ」
ビクッと震えたのはコウモリの紫苑だ。風見鶏の上にちょこんと逆さになって休んでいた。いつも颯真が学校の時は屋上で待機していた。
「げっ……やばい」
何か気配を感じ取った紫苑は慌てて、翼を広げ、丸い異次元空間を開き、飛び立っていった。見せていけないものを2人の前に見せた。慌てて逃げたことがまずかった。
「あれ、なんだよ。どういうことだ」
「あの、コウモリ! 普通じゃない。絶対なんかある」
「は? あのコウモリと颯真が話してたってことか? 動物が話せるわけないだろ」
「そ、それはそうだけど、1人でここにいてコウモリと話してるって変だって」
「…………1人で。うん、まぁ、あいつの性格でそれは変だな」
「でしょう? 普通じゃない気がするからさ。あんたに相談したのよ」
「なんで俺かが意味わからねぇけども、調べてみる価値はあるかもなぁ。あいつの素性。面白くなってきたな」
「べ、別に面白くはないけど」
「おい、そこ、乗っかれよ」
「無理」
まもなく昼休み終了の予鈴チャイムが鳴ると、朱は屋上から校舎の中につながる扉に入った。悠太も続けて校舎に入る。風が強く吹いて、勢いよく扉が閉まった。
「もし、颯真がコウモリと話せるって言ったら、どう返してあげればいい?」
「知らねぇよ。思ったこと口にすればいいじゃね?」
後頭部に両手を組んで、横を歩く悠太。心配症なところがあるんだと朱の意外な姿を見て、驚いていた。
「優しいとこ、あるんだな」
「優しくもなんともない。別に!!」
バシッと、顔をはたいて、駆け出す朱に、目を大きく見開く悠太だ。