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第12話 見られたくない現実

 妙な胸騒ぎ感じた颯真は、昼休みを終えても教室には戻らなかった。棒付き飴を舐めながら、校舎の影にしゃがんで、ぼんやり過ごしていた。チャイムはとっくに鳴って各教室では教科担当の教師が、黒板にチョークで文字を書く姿が見える。平気な顔して、授業をサボっていた。


 颯真の顔にコウモリの紫苑が飛んできた。屋上での出来事を紫苑から聞いていたため、屋上にも行けずに校舎の端の影で時間つぶししていたが、追いかけてきたようだ。


「や、やめろ。何すんだ!」

  しばらく、がしっとしがみつくコウモリの紫苑に颯真は苛立った。


「へへんだ。離れないよーだ。颯真が悪いんだからなぁ。友達においらと話すところ見せるから」


「な?! 俺は何もしてないぞ。お前が勝手に出てきて、勝手に戻っていったんじゃないか。なんであいつらに異次元を見せるだよ。絶対怪しいやつって俺思われたじゃないか!」


 思いっきり力を込めて、地面に紫苑を投げ捨てた。翼がくたんと崩れたが、すぐに回復する。


「いたたたた……。乱暴だなぁ。おいらをそんな風に扱うなんて、閻魔様に言ってやるぞ」


「は? お前、小学生かよ。悪いことしたら、先生に言ってやろうってやつだ。ウケるなぁ」


 呆れた顔をして肩をすくめる颯真の顔を見て、さらにイライラする紫苑。


「おいらは人間じゃないぞ! コウモリだ。閻魔様に逆らうと大変なんだぞ!!」

「そもそも、お前が俺の顔にしがみついて来たんだろうが! 全く、意味のない行動は控えろよ。またあるんだろ? 事件が」

「……ふん。おいらは、颯真に喝を入れただけだもん! 次の事件はこの学校の3年の学年主任の先生だ。既に留置所に入ってる」

「そんなあっさり言うのかよ。その先生って、テレビのニュースで見たよ。確か、学級費を横領した罪で捕まったんだよな。借金返済のためだとか……苦労して出したか

もしれない人様のお金を持っていくなんてな」


 颯真は小さな声で話していたはずだったが、庭木の伐採をしていた用務員の斎藤 勝次郎に見つかった。


「そこで何をしている?!」


「やべっ……」


 颯真は黒いマントを翻し、一瞬にして姿を消した。マントの中には紫苑も一緒に飛びながら入っていた。ブツブツと文句を言いながら進むため声は丸聞こえだ。


「おい、少し静かにしろって」

「こんな中で黙れっていうのは無理だ」


 いうことを聞かない紫苑に颯真は、黒いマントを着たまま高く飛び上がり、いつもの屋上まで逃げて行った。


 透明で見えないはずの2人の姿、声は少し聞こえた斎藤は呆然としばらく立ち尽くしていた。


「何だったんだ? 今の……」


 屋上の地面に降り立って、暑苦しいマントを脱いだ。バサバサと中から紫苑が出てきた。


「全く、静かにしろって言うのに、うるさいんだよ、お前は」

「颯真が悪いんだろ? 最初からずっとここにいればいいのに、下に行くから。人に見つかるに決まってら……あ?」


 紫苑が颯真にブツブツと文句言っていると、屋上の出入り口で2人を見る藤原 朱の姿があった。今は確か、授業のはず……なぜ、ここにいるのだろうか。お互いに体がかたまってしばらく何も言えなくなった。お見合いをしているように見つめ合う。 紫苑はパタパタとパニックになって、くるくる飛び回る。


「あ、あのさ、それ、どういうこと?」

「……え、えっとぉ……」


 言い訳を考えるのも苦しい。颯真は右往左往して悩んだが、結局決められず。指パッチンをして、空間をゆがませた。


「あ、颯真。ダメだぞぉ」

「誰のせいだ。誰の!」


 額に筋を作って、イライラしながら今いる空間の時間をとめた。すべての景色がセピア色に切り替わった。颯真は胸をなでおろした。



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