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第15話

北条信堅が人を遣って京都で探し続けて、ようやく半月——

郊外の荒れ寺で、あの勾玉を質に入れた女を見つけた。


彼女はぼろぼろの布をまとい、藁を敷いた上に横たわる虚ろな女性へ、薬を与えていた。


私は、ひと目でわかった。

それが、もうすぐ三年ぶりとなる——義姉だった。


流転の末に、どれほどの苦労を味わったのだろう。

身体は病に蝕まれ、今にも倒れそうなほど弱っていた。


かつて義姉が善意で助けた相手が、恩を忘れず今も彼女を支えていたのだという。


北条信堅は言った。

「堺港には名の知れた薬がある。……すぐに姉上を連れて帰り、治療にあたろう」


京都を発つ前、彼は御所に赴いた。

そして戻ってきたとき——

私に、一通の綸旨を手渡した。

義姉の遊女身分を赦免する、正式な詔勅だった。


「姉上の病が癒えたら……今度こそ、名実ともに堺港にて、君と共に過ごせるようになる」


私はその綸旨を手に取り、知らず涙ぐんでいた。

「……この綸旨を得るの、きっと容易なことではなかったでしょう?」


北条信堅は少しばかり照れたように笑った。

「……北条家にはね、他に誇れるものはないけれど、金子だけは少々あるんだ。

 戦が終わったばかりで、朝廷も懐が寒かろう」


そして、さらに続けた。

「それと——堺港には、東宮様の持病に効く霊薬がある。

 その霊薬を、これから定期的に朝廷へ献上する約束もしたよ」


……なんという大きな代償。


私が黙っていると、北条信堅は慌てて言い訳のように続けた。


「いや、もちろん……全部が全部、姉上のためってわけじゃない」


彼の声は、静かに低くなった。


「東宮様はお優しく、英邁なお方だ。

 ゆくゆくは、きっと名君となられるだろう。

 だが、もし万が一……ご容態が悪くなられれば、実権は内親王の手に落ちる。

 あの御方の性分は、君もよく知っているだろう?

 横暴で、気まぐれで……あんな人が実権を握ったら、庶民が苦しむだけだ」


——そう言われれば、確かにそうかもしれない。

私は頷いて、義姉を連れて帰る支度にとりかかった。


けれど私の知らぬところで——

私が去ったあと、北条信堅はほっと息をついた。


傍に仕える近侍が、呆れたように口を開く。


「……まったく、殿は“天下のため”などと大義名分を振りかざしておいでですが、

 結局のところ、奥方様と義姉様が堺に居てくれれば、離れられぬ牽掛ができて——

 しかも東宮殿下のご体調が戻れば、あの内親王が実権を握ることもない。

 ましてや霧島清次なんぞが台頭する隙も潰せるという……

 殿、計算づくじゃありませんか」


——パシッ。


北条信堅はその男の頭を思いきりはたいた。


「お前、それ奥方様に聞かれたら……畑に追い返すからな!」


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