北条信堅が人を遣って京都で探し続けて、ようやく半月——
郊外の荒れ寺で、あの勾玉を質に入れた女を見つけた。
彼女はぼろぼろの布をまとい、藁を敷いた上に横たわる虚ろな女性へ、薬を与えていた。
私は、ひと目でわかった。
それが、もうすぐ三年ぶりとなる——義姉だった。
流転の末に、どれほどの苦労を味わったのだろう。
身体は病に蝕まれ、今にも倒れそうなほど弱っていた。
かつて義姉が善意で助けた相手が、恩を忘れず今も彼女を支えていたのだという。
北条信堅は言った。
「堺港には名の知れた薬がある。……すぐに姉上を連れて帰り、治療にあたろう」
京都を発つ前、彼は御所に赴いた。
そして戻ってきたとき——
私に、一通の綸旨を手渡した。
義姉の遊女身分を赦免する、正式な詔勅だった。
「姉上の病が癒えたら……今度こそ、名実ともに堺港にて、君と共に過ごせるようになる」
私はその綸旨を手に取り、知らず涙ぐんでいた。
「……この綸旨を得るの、きっと容易なことではなかったでしょう?」
北条信堅は少しばかり照れたように笑った。
「……北条家にはね、他に誇れるものはないけれど、金子だけは少々あるんだ。
戦が終わったばかりで、朝廷も懐が寒かろう」
そして、さらに続けた。
「それと——堺港には、東宮様の持病に効く霊薬がある。
その霊薬を、これから定期的に朝廷へ献上する約束もしたよ」
……なんという大きな代償。
私が黙っていると、北条信堅は慌てて言い訳のように続けた。
「いや、もちろん……全部が全部、姉上のためってわけじゃない」
彼の声は、静かに低くなった。
「東宮様はお優しく、英邁なお方だ。
ゆくゆくは、きっと名君となられるだろう。
だが、もし万が一……ご容態が悪くなられれば、実権は内親王の手に落ちる。
あの御方の性分は、君もよく知っているだろう?
横暴で、気まぐれで……あんな人が実権を握ったら、庶民が苦しむだけだ」
——そう言われれば、確かにそうかもしれない。
私は頷いて、義姉を連れて帰る支度にとりかかった。
けれど私の知らぬところで——
私が去ったあと、北条信堅はほっと息をついた。
傍に仕える近侍が、呆れたように口を開く。
「……まったく、殿は“天下のため”などと大義名分を振りかざしておいでですが、
結局のところ、奥方様と義姉様が堺に居てくれれば、離れられぬ牽掛ができて——
しかも東宮殿下のご体調が戻れば、あの内親王が実権を握ることもない。
ましてや霧島清次なんぞが台頭する隙も潰せるという……
殿、計算づくじゃありませんか」
——パシッ。
北条信堅はその男の頭を思いきりはたいた。
「お前、それ奥方様に聞かれたら……畑に追い返すからな!」