「清和!この海、すっごく好き!」
霧島栖は山の頂上に立ち、額に浮かぶ汗を気にせず笑っていた。長い髪はすっかり汗で濡れている。
林原清和はそんな彼女を見つめながら、手に持っていたバイクを受け取った。
「清和、今度はギリシャに行こうよ!」
彼女は画集の一枚を指差し、無邪気に声を弾ませる。
「この海、ちょっと寂しげだね。……清和、寂しさが一番嫌いだって言ってたよね? だから、もう一度、ここに行こうよ。今度はふたりで」
その瞳は、まるで太陽みたいに輝いていた。林原清和は、彼女の言葉に微笑み、自分が描いたその海の絵と、彼女の横顔を交互に見つめ、彼女の額にキスを落とした。
「うん。君がいれば、この海にも、きっとまたキラキラした時に戻ってくる」
本当に、そうだった。
栖が両腕を大きく広げ、陽光を浴びて微笑むと、崖の下に広がる海は、まるで呼応するようにきらきらと光を反射し、穏やかな波が打ち寄せる。
「清和……これからも、ずっと一緒に海を見よう。この世界の、全部の海を見てまわろうよ」
彼女は彼の肩にもたれ、憧れに満ちた瞳で未来を見つめていた。林原清和は、その言葉を決して冗談とは思わず、真剣な顔でうなずいた。
「うん。その海を全部描いていくよ。君と、僕と、それから……ゆりりも一緒に」
そして唇に、そっと永遠の誓いを刻むようなキスを重ねた。
約束した。
すべての海を見よう。ずっと、ずっと……一緒に。