地下城入口のコールドライト・ランプが、ユヴェタンの金髪に銀の縁取りを施していた。長井淳は足を止め、無意識のうちにザーベルの柄に指を置いた。
「奇遇だ」ユヴェタンの笑顔が薄暗い光の中でもひときわ明るく、コアの指輪が微かな青い輝きを放っている。「こんなに早く再会するとはな」
長井淳はユヴェタンの胸のスタークラストレベルのバッジを一瞥すると、「ブリザード団長が掃討作戦とは?」
「本来なら必要ないんだが」ユヴェタンは肩をすくめ、戦闘服の氷結紋が動作に合わせて微かにきらめいた。「ある面白い野郎が我が輩の誘いを断ったからな。彼が一体何を探しているのか、直接確かめに来たまでだ」
由紀のサイバーアームバンドが突然かすかな「ピッ」という音を立て、エネルギー波を表示した。彼女の視線は二人の間を揺れ動き、ノーズリングが緊張で微かに揺れている。
「行くぞ」長井淳は振り返ってセキュリティゲートへ向かい、タクティカルバッグの中のノートが背中に重くのしかかるのを感じた。
地下城のエレベーターは第7区のものよりずっと広く、金属壁面には精密なアンチ・レディエーション・シンボルが刻まれていた。ユヴェタンが長井淳の横に立つと、コア指輪の光輪が監視モニターに映り、小さなダビデの星の影を形成した。
「君は第7区で育ったんだってな?」ユヴェタンがさりげなく問いかけた。「両親も傭兵だったのか?」
長井淳は点滅を続ける階層表示を見つめたまま、「里の父だ」
「ああ、その――」ユヴェタンの言葉は、エレベーター到着のチャイムに遮られた。ドアが開いた瞬間、エンジンオイルと消毒液が混ざった風が流れ込んでくる。
第六区中継ステーションは、長井淳が想像していた以上に忙しかった。十数両のアーマードトレインが線路に停まっており、完全武装の傭兵たちが列を作って乗車している。案内ディスプレイには、ザーグの活動区域のリアルタイム映像が流れされ、時折赤い「高リスク」マークが点滅していた。
「D7列車!」雷雨グループの制服を着た巨漢がプラットフォームの中央に立ち、オリハルコンレベルのアームバンドが太い腕できらめいている。「西側戦線行きのD7だ!」
彼のコントロールパネルが飛び出し、全員に見せるように展開した――
【氏名:ライザー
身分:一等傭兵
所属:雷雨グループ傭兵隊長
異能:土留め
エネルギーランク:オリハルコンレベル】
由紀は小走りで長井淳に追いつくと、「あの人がライザー、今回の作戦の現場指揮官よ。噂では――」
彼女の言葉は耳をつんざくようなホイッスルの音に遮られた。いつの間にかレイザーが彼らの前に立っており、2メートルを超える巨体の影が三人をすっぽりと覆い尽くした。
「スタークラストレベル?」ライザーの魔眼がユヴェイタンのバッジをスキャンし、鼻で笑った。「ここでは俺がルールだ。ランクで威張ろうなんて思うな」
由紀の金属の指が「カチッ」とガードモードに変形した。「あなた――」
「無論」ユヴェタンは彼女の肩に手を置き、笑顔を微塵も崩さず、「ルールは心得ている」
ライザーは訝しげに彼らを見回した後、最終的に最後尾の車両を指差した。「ザコ用車両だ。トラブルを起こすな」
車内には既に20人以上の傭兵が座っており、大半はシルバーレベルだった。ユヴェタンの星墜級徽章を見ると、皆無意識に脇へ身を寄せた。長井淳は窓際の席を選ぶ。リュックの中の里の父のノートは熱を帯び、断片的な座標が徐々に明確になりつつあるように感じられた。
「で」ユヴェタンは自然な流れで彼の隣に座ると、「君の里の父は何をしていたんだ?」
長井淳は窓外に流れるトンネルの壁を見つめたまま、「傭兵だ」
「普通の傭兵が、女王を単独で仕留められる弟子を育てられるものか」ユヴェタンの指輪が薄暗い車内で微光を放ちながら、「名前は?もしかしたら知っているかもしれない」
列車が突然激しく揺れ、この探り合いのような会話を遮った。車内放送からライザーの声が響く。「聞け、ザコ共!西側の状況は通報より悪い。ザーグの今回の襲撃は無差別ではなく、計画的占領だ」スクリーンには第6区西側の地図が表示され、赤い点が完璧な扇形に分布している。「奴らは我々の補給ラインまで断ち切った」
顔中傷だらけの傭兵が嘲るように鼻で笑った。「蟲は蟲だ。どれだけ変異しようが、脳みそは育たねえ」
「知能を持ったザーグを見たことがある」長井淳が突然口を開いた。声は大きくないが、異様にはっきりとしている。「三年前、第6区の深部でな」
車内が一瞬にして静まり返った。傷痕男は大袈裟に笑いだす。「ブロンズレベルのザコが何を知っている?本物のワーカーコロニーすら見たことないだろうが!」
他の傭兵たちも続けて野次馬の笑いした。由紀の機械義手が「カクン、カクン」と不気味な音を立てる中、長井淳は平静に傷痕男を見つめた。「あのザーグは脳波で集団を制御できた。里の父の話では、第5区の防衛線を破りかけたらしい」
「戯れ言を!」傷痕男はテーブルを叩きつけて立ち上がると、「ザーグでフェロモンを放出できるのは女王だけ、これは常識だ!」
ユヴェタンの指輪が突然明るく輝いた。「常識は破られるために存在する」彼の声には疑いようのない威厳が込められていた。「ブロンズレベルが女王を単独で仕留められないと誰もが信じていた――彼が成し遂げるまではな」
傷痕男は口を開いたが、結局むっつりと座り直した。再びライザーの声が放送から流れてくる。「脳があろうとなかろうと、我々のミッションは西側駅周辺のザーグ掃討だ。覚えておけ、今回は今までと――」
列車が突然耳を劈くような金属軋み音を立て、次の瞬間――天地が逆転するような激しいダメージロールが起きた。無重力に襲われた瞬間、長井淳は手すりを掴むと同時に、もう片方の手でユキの襟首を捉えた。ユヴェタンの指輪が眩いほどの青光を迸らせ、三人の周りに一瞬だけフォースフィールドを形成する。
世界が回転を止めた時、車両はすでに線路上にサイドロールしていた。非常灯が赤く点滅し、舞い上がる塵と歪んだドアを不気味に照らし出してきた。
「死傷者報告を!」ライザーの怒号が車両前方から響いてきた。
長井淳は歪んだ窓枠を蹴り破り、真っ先に外へ這い出た。目の前の光景に、彼のサーベルは自動的に鞘を飛び出した――線路全体を鎌ムカデが埋め尽くし、その甲殻は非常灯の下で不気味な紫色に輝いている。さらに恐ろしいことに、それらのムカデは訓練された軍隊のように組織的に列車を包囲していた。
「これは偶然じゃない……」這い出てきた由紀が息をのんだ。「奴らは我々を待ち伏せていたのよ」
ユヴェイタンの指輪が不気味に輝き続け、線路脇の制御ボックスを照らし出した――ボックスは何らかの強酸で大きく溶かされ、内部の配線は精密に切断されていた。「偶然ではないな」彼の声には珍しく緊迫感が滲んでいた。「人間か、あるいは何かが、奴らを指揮している」
長井淳の視線はザーグの群れを越え、トンネルの奥深くへと向かった。里の父の手帳はリュックの中で異様に熱を帯び、断片的だった座標がついに一本の線となり、第六区地下の最も暗い角落を指し示していた――そこには、何かが彼を待ち受けていた。