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第19話

金属の羽根が織りなすデスウォールが押し寄せてくる。長井淳のサーベルが闇にシルバーライトを走らせた。一匹目は首を飛び、二匹目は翼を断たれた。だが三匹目、四匹目……彼らは次々と襲いかかり、犠牲など意に介さない。


 「ズッ」――一片の羽根が長井淳の左肩を掠め、骨まで見える深手を負わせた。歯を食いしばりながら後退する彼の背中が、冷たい岩壁にぶつかった。百を超える刀羽鳥が縮めていく包囲網。金属の羽根同士がぶつかり合い、「キーン」という歯の浮くような金属音を響かせている。


 体内から突如として灼熱感が爆発した。長井淳の傷口に不気味なゴールドライトが浮かび、癒合が肉眼で確認できる速さで進んでいく。吸収されたコアのエネルギーが血管を奔り、ガソリンに火がついたように燃え上がる。サーベルは彼の手の中で微かに震え、まるで主人の殺意を感じ取ったかのようだった。


 まさに鳥の群れへ突撃せんとする瞬間、空気が無数の透明な刃へと凝結した――


 「ザッ!」


 見えない風の刃が鳥の群れをぶち抜いた。最前列の十数羽の刀羽鳥が一瞬で金属の破片と化し、後続の群れは慌てて散りだした。長井淳が振り向くと、トンネル入り口にユヴェタンが立っている。コアの指輪が、彼の険しい表情を浮かび上がらせていた。


 「てめえ、死にてえのか?」ユヴェタンの声には、珍しく怒気がこもっていた。エアロブレードが彼の周りに障壁を形成する。「一人でバグホールの奥深くに突っ込むなんて……」


 ユヴェタンの指輪が一瞬きらめく。エアロブレードが鋭く舞い、背後から忍び寄った二羽の刀羽鳥を切り落とした。「わかってる。だが……仲間を置き去りにする理由にはならねえ」


 「こいつらは任せる。」長井淳が突然、洞窟の奥へと走り出した。「ライザーを探す。」


 「待て!」ユヴェタンのウィンドウォールが行く手を阻んだ。「お前、正気か? この先には──」


 長井淳のサーベルが、予兆もなくユヴェタンの喉元に触れた。「どけ」


 二人が睨み合った数秒の間に、刀羽鳥の群れは再び集結を終えていた。ユヴェタンの指輪が激しく閃光を放ち、やがて彼は「クソッ……行けよ」と舌打ちした。彼は風属性能力を最大解放しながら鳥群へと背を向けた。「生きて戻ってこい、この野郎」


 洞窟の奥へ進むにつれ、空気は淀み、壁にはブルースパーが不気味な模様を描いていた。長井淳のサーベルが闇に冷たい光を放つ。刃にはまだ刀羽鳥のメタルでブリがこびりついている。胸ポケットの里の父の手帳が熱を帯びてきた。あの欠けた座標が、今まさに完結しようとしている――


 曲がり角から突然、三匹の鎌ムカデが現れた。甲殻に並ぶブルースパーは、これまでに見たどの個体よりも密に群生している。長井淳は身をかがめて最初の一匹の鎌撃を回避すると、サーベルを下から突き上げ、腹側第三節の隙間に突き立てた。緑色の体液が噴き出す。その瞬間、彼はムカデの剛毛を掴んで体を引き上げ、第二匹の背中へと飛び移った。一刀閃光――二匹目の頭が地面を転がった。


 3匹目のムカデは突然戦術を変え、攻撃をやめて酸の液体を噴射してきた。長井淳は横転して回避し、サーベルを放り投げた。刀は正確にムカデの口器に突き刺さった。ムカデが狂ったようにのた打ち回る中、彼は駆け寄って刀の柄を握り、思い切り捻りを加え、この短い戦いを終わらせた。


 奥へ進むほど、ザーグの防御は厳重になっていく。長井淳の戦闘服はぼろぼろで、露出した肌には癒えつつある無数の傷が刻まれていた。吸収したコアのエネルギーが体内を駆け巡り、驚異的な戦闘力を維持させているが、その消耗もまた激しさを増していた。


 前方のトンネルが突然開け、サッカー場ほどの大きさの洞窟が目の前に現れた。洞窟の中央には巨大な虫の繭が浮かんでおり、表面には見覚えのあるダビデの星の紋様が刻まれていた。


 「見つけた…」長井淳がサーベルを静かに構える。里の父の手記に記された印、刀羽鳥の異常な行動——すべての手がかりがこの場所へと繋がっていた。


 しかし、女王はどこだ?伝説のザーグの主宰者——なぜそれが見えないのか?


 まさにハイグラウンドへ駆け上がらんとした瞬間、地面が激しく揺れ動いた。自動車ほどの大きさのタンクバグが二匹、土中から現れる。甲殻にはブルークリスタルが埋め込まれ、背中の浮袋が呼吸と共に膨らんでは縮む。左右からハイグラウンドを塞ぐように立ちはだかり、複眼には知性の光が宿っていた。


 長井淳の筋肉が硬化する。眼前のタンクバグは以前遭遇した個体より巨大で、甲殻の色も濃密な紫に近い。しかし彼らは即座に襲いかかるでもなく、衛兵のようにその場に静止している――明らかに何者かの明確な指令を受けた挙動だ。


 「シュウウッ……!」そのうち一匹のタンクバグが低周波の振動音を発すると、背中の浮袋が突然限界まで膨張した。長井淳は一瞬で状況を悟り、全力で後方へ跳び退がる――


 業火がタンクバグの口器から噴き出し、瞬く間に長井淳が今しがた立っていた場所を飲み込んだ。岩は高熱で溶け、ガラス状の結晶へと変質する。熱風が押し寄せる中、素早く回避した長井ですら、露出した皮膚に無数の水ぶくれが浮かび上がっていた。


 二匹目のタンクバグは息つく暇も与えず、続けざまに第二の火柱を放った。長井淳は岩陰へと転がり込み、炎が岩肌を焼き裂く爆音に耳を澄ます。戦闘服の破れから青い煙が立ち上り、自分自身の毛髪が焦げる臭いが鼻腔を刺した。


 「クソっ……」岩陰から覗く長井淳の視界には、完璧な連携で前後に陣取るタンクバグの姿があった。一匹が炎を噴けばもう一匹が警戒態勢――隙のない攻撃のリズムが、全ての前進ルートを死守している。


 さらに厄介なことに、空中に浮かぶ虫の繭が規則的な鼓動を始めていた。何かが孵化しようとする胎動のように――長井淳の直感が警鐘を鳴らす。タンクバグの防衛線を突破しなければ、手遅れになる。今すぐにだ。


 長井淳は深く息を吸い込み、サーベルを胸前に構えた。体内のコアが沸騰するように滾り、皮膚の下の血管がかすかなゴールドライトに輝く。里の父の声が記憶の中で反響する――「どんな防御にも弱点はある。肝心なのは…リズムを見つけることだ」


 最初のタンクバグの浮袋が再び膨らんだ。長井淳は一瞬の隙を見計らい、炎を噴き出す瞬間に猛然と飛び出した。灼熱の炎が背中をかすめ、焼けつくような痛みで視界が一瞬かすむ。だが彼は止まらなかった――サーベルをまっすぐタンクバグの脚の関節へと突き立てる。


 「ガンッ!」刃と外殻が激突し、火花が散る。タンクバグの甲殻は予想以上に硬く、サーベルが刻んだのは浅い斬れ痕だけだった。痛みに狂ったタンクバグが前脚を巨大なハンマーのように振り下ろす。長井淳はかろうじて回避したが、衝撃波に巻き込まれ、吹き飛ばされた――


 二匹目のタンクバグは待ち構えていたように、火柱で彼の落下地点を正確に封じた。長井淳は空中で無理やり体勢を変えたが、それでも左腕を炎にかすめられた。肉が焼ける匂いがたちまち広がり、激痛で左手の感覚が一時的に消えた。


 「クソっ…」長井淳は片膝をつき、サーベルを地面に突いて体勢を保つ。二匹のタンクバグがゆっくりと迫ってくる――背中の浮袋が再びエネルギーを充填し始めた。その複眼に映っているのは、長井淳の狼狽した姿だ。あたかも、身の程知らずの愚かさを嘲笑うかのようにだった。


 繭の鼓動はますます激しくなり、洞窟全体が揺れ始めた。細かいブルークリスタルが天井から剥がれ落ち、雪のように空中に舞い散る。長井淳は、目に見えない圧力が降りかかってくるのを感じ、息をするのも苦しくなった。


 タンクバグの浮袋は限界まで膨れ上がり、口器が開いて、内部の螺旋状の火炎導管が露出した。長井淳はサーベルを握り締め、ゆっくりと後ずさった。


 その瞬間、長井淳の脳裏にひらめきが走った。

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