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第37話

長井淳の両手が震えていた。


 洞窟の中央には、主宰の巨大な躯が山のようにそびえ立っている。八本の柱のような脚は地面に深く突き刺さり、朧げな人間の顔はまさに彼に向けられていた――その口元には、不気味な微笑みが浮かんでいるように見えた。長井淳は体内で沸き立つエネルギーを感じていた。皮膚の下で、ゴールドの光がますます強く輝きを増していく。


「淳、待て!」身動きの取れないユヴェタンは必死に制止しようとする。「我々はその相手ではない!」


 長井淳はルーラーから目を離さず:「やってみなくちゃわからない」


 深く息を吸い込み、目を閉じる。体内のエネルギーが洪水のように奔りだし、コントロールパネルの数値が再び狂ったように跳ね上がった――

 【エネルギーレベル:スタークラストレベル...突破中...】

 【警告!ゴッドフォージレベル閾値に接近!】


 洞窟が震動し始め、天井から小石がざらざらと落下してきた。長井淳の髪は静電気で逆立ち、瞳からは金色の光が実体化せんばかりに輝いている。これこそ彼がこれまで試したことのない力――伝説の《ゴッドフォージレベル》だった。


 「うおおお――っ!」


 長井淳が両掌を前に突き出すと、まばゆいゴールドの光柱がルーラーめがけて一直線に放たれた。エネルギー波が通過した軌跡には地面が裂け、空気が歪み、光さえも飲み込まれていく。ユヴェタンは目を閉じざるを得なかった――強烈なエネルギー波に、息もできないほど圧迫されて。


 しかし――


 ルーラーはゆっくりと前脚を上げ、まるで子を抱き締める母親のように腕を広げた。ゴールドの光柱はその甲殻にぶつかったが、何のダメージも与えられない。むしろ、エネルギーは吸収され始め、スポンジに水が染み込むようにルーラーの体内に消えていった。


 長井淳は目を見開いた。彼の最強の攻撃が、こんなにも簡単に無効化されるだなんて……?


 「ありえない……」ユヴェタンが呟く。「ゴッドフォージレベルの攻撃がどうして……」


 ルーラーは低くうなるような声を発し、その朧げな人間の顔が蠢きながら語った。「我が子よ……お前の力は……私から受け継いだものだ……」


 長井淳はよろめくと、二歩後ずさった。先ほどの一撃でエネルギーの大半を消耗してしまい、コントロールパネルの数値が急降下していく:


 【エネルギーレベル低下:スタークラストレベル】

 【警告!エネルギー枯渇!】


 ルーラーはゆっくりと巨体を動かし、一歩ごとに地面を震わせた。「我が……子よ……」


 「私たちは……同族だ……」


 「そんなはずがない!」長井淳の鋭い叫び声が広い洞窟に反響した。「俺は人間だ!」


 ユヴェタンが長井淳の前に立ちはだかった:「惑わされるな!ザーグはメンタルゲームが得意だ!」


 ルーラーはすぐには反論しなかった。一本の前脚を上げ、軽く地面を叩く。すると、影から数匹のモンスターインセクトが這い出してきた――まさに人間の腹から破り出てきたあの怪物たちだ。彼らの細長い四肢が地面を引っ掻き、耳障りな音を立てるが、いつものように攻撃を仕掛けてはこない。長井淳から三メートルほど離れた位置で止まり、じっと彼を「見つめ」ている。


「ほら……」ルーラーの声が直接長井淳の脳裏に響く。「奴らは……お前を攻撃しない……」


 長井淳は警戒しながらモンスターインセクトたちを見つめた。確かに、彼らは一切の攻撃性を見せておらず、むしろ……敬意すら感じさせるような態度だ。


 「なぜだ?」長井淳は思わず問いかけた。


 「それは……お前の体に……奴らの遺伝子が刻まれているから……」ルーラーの声には不気味な優しさがにじんでいた。「お前は……我々の同胞なのだ……」


 ユヴェタンが急に長井淳の方へ振り向いた:「嘘だ!淳、騙されるな!」


 長井淳の呼吸が荒くなった。モンスターインセクトたちが自分に示していた特異な態度、緑液体の中で魚のように自在だった感覚、コントロールパネルに表示されていた異常なエネルギー波……それら全てが頭をよぎった。


 「違う…そんなはずがない!」長井淳は自分を落ち着かせようと必死だった。「俺は人間だ!」


 「人間の世界で育ち、人間に育てられた俺が…ザーグと関わりがあるなんてありえない!」


 「お前の…罠だ!」

 ルーラーはしばし沈黙し、それからゆっくりと語り始めた:「お前のエネルギーランクは……なぜ……ずっと突破できないのか?」


 長井淳はハッとした。確かにこれは彼の最大の謎だった――どれほど訓練を重ねても、彼のランクは一向に上がらず、つい最近になって急上昇し始めたのだ。


 「ザーグの遺伝子が……お前の進化を抑制していた……」ルーラーが続けた。「お前には……さらに多くの霊力……そして特殊な薬剤が必要だ……」


 「薬剤……?」長井淳は突然、里の父が最期に押し込んだあの金属カプセルを思い出した。あの時里の父は「命を繋ぐものだ」と言い、定期的に服用するよう言い渡していた……


 「どんな薬剤だ?」長井淳の声はわずかに震えていた。


 「安定剤だ……」ルーラーが答える。「遺伝子の反噬を防ぐもの……」


 「しかし……お前の身体能力とエネルギーっランクは、同レベルの進化人類を遥かに凌駕している」


 「なぜなら、お前は人間ではないからだ」


 「お前は我が子であり、我々の同胞なのだ」


 「だからこそ、お前は進化の鍵に触れ、全ての人類の頂点に立つことができる」


 長井淳の呼吸が次第に乱れていった。ルーターの言葉が彼の理性を揺さぶっている。


 ユヴェタンが突然割り込むように叫んだ:「淳、あいつはお前の精神を乱してるんだ!今すぐここから脱出するぞ!」


 長井淳は動かなかった。あまりにも多くの疑問が突然説明がつき始めた――里の父の不可解な行動、破り取られたノートのページ、そして常人とは異なる自分の体質……


 「もし俺が本当に……お前たちの仲間なら」長井淳は言葉を絞り出すようにして問いかけた。「なぜ俺は人間社会で育てられたんだ?」


 ルーラーがわずかに首を傾げ、まるでこの質問にどう答えるか考えているようだった。その瞬間、洞窟の奥から重たい引きずる音が響いてきた。数匹のワーカーが鉱石材の棺をゆっくりと押して現れ、その中は緑液体で満たされていた。


 長井淳の鼓動が突然速くなった。不吉な予感が毒蛇のように背筋を這い上がる。


 ワーカーたちが棺桶を直立させ、緑色の液体がゆっくりと流れ落ち、中にいる人物が現れた――

 長井洋介。

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