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0618 地平線のきらめき

千葉県某所。


海を目の前にして耽る。

真っ黒い地平線の向こう側。


地平線を灯台の光が舐める。

しかし底なしの闇は灯台の光を物ともしない。


ほんのわずかに明るいあの境界線が海と空を隔てる境界線なのだろう。

ボゥっと暗闇を見つめていれば足音。


「暖かい飲み物どうぞ」

「暖かい飲み物どうも」


俺は彼から白い湯気を立てる紙コップを受け取った。


僅かな苦みと程よい酸味。

彼の好きなフルーティーなホットコーヒーだ。


本日は彼の撮影に付き合いこの海岸にやって来たのだが二人でキャンプの真似事。


「撮影は終わったのか?」

「うん。

素材に使う分は取れたよ。

後は君が帰りたいタイミングで帰ればそれで終わり」


ボゥっと星空を見ながら考える。


「もぅすこしこのままで良いかなぁ…」


星空に思考が溶ける。


虚空を見続ける事。数十分。否、数分。

空を一筋の光が駆け抜けた。


「おぉ、流れ星」

「え?どこ??」

「もう消えたよ」


その後も数回流れ星が過ぎ去っていったが二人で同じ星を眺めるのがなかなか上手くいかない。


星が流れたと思えば彼が見ていなかったり。俺がコーヒーを啜っている間に星が過ぎ去っていたり。

逆に同じ流れ星を見れた瞬間は子供の様に燥いでしまった。


何度目かの流れ星同時視聴で興奮が冷めた後俺は深呼吸一つして気持ちを切り替える。


「今日は終わりにするか」

「だな」


俺は運転席に。彼は助手席に。

エンジンを入れようとした寸前彼が社内のライトを付けて来た。


「記念撮影」


彼はインカメで俺たちを移しながら写真を要求してくる。

断ろうかと考えたが―――断る理由も無いだろう。


こうして二人の時間を共有できるのもそう多くないのだから形として残しておくのも良いかもしれない。

互に子供から大人に変わりつつあるためか予定が合わなくなってきたから。


「また今度どっか行こうぜ」

「あやふやな予定だな」

「別に良いだろ。

こういう宛の無い旅も」

「違いない」


俺は来た道を帰った。

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