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0619 秘密の共有

大和田奏は編曲家だ。


編曲家とは作曲家が作った音楽に手を加え曲を仕上げる言わば最終調整役だ。

編曲家は長い音楽経験を元に誰かが作った粗削りな音楽の最終調整をする言わばベテラン職人。


一般的な作曲家やアーティストの様に日の目に当たることは無く黙々と作業をする毎日。


私はこの仕事が好きだが好きすぎて家の外に出ないあまり世間一般の感性からズレ始めた。


結論。仕事が好きすぎてボッチになった。


家の中は荒れ果てご近所付き合いも無く、彼氏も無く、残ったのは仕事と使い所のないお金だけ。

そんなヤバい状態で30代を迎えてしまった。


―――と、そんな私に転機が訪れた。

親戚の集まりで仕事を探している少年を見つけたのだ。


親の元から離れたい一心で仕事を探す中学生の男の子に感銘を受け、私は彼を家政婦として雇い、その代わりに彼が一人暮らしする為の家賃を私が捻出する。そんな契約である。


それだけの契約ーーーのはずだった。


―――はずだったんだよ。

私がからかって彼の事を煽ったら襲われてしまった。


否、襲われたと言って被害者ぶるのは辞めよう。

彼を誘惑して手を出させてしまったというのが正しい。


事後に冷静になってから考え直したがこれどう考えても私の方が悪い。

ってか普通に未成年淫行だった。

ボッチになって、人恋しくて子供をたぶらかして襲わせたって相当ヤバい奴だなと思った。マジで。


でも何故だろう。

やらかした後だからか心が凪の様に静かだ。


何だったらスパイ映画で仕事を終えた女スパイが感傷に浸ってる感じだった。


社会的にまずいのは分かっているがこの家は防音だから隣に聞かれている事も無いし、彼も一人暮らしで心配する家族もいない。

後は彼自身の問題だが彼の性格からして安易に周りに言いふらしたりしないだろう。


完全犯罪出来ちゃったな、コレ。


「奏さん。何でベランダでタバコ吸ってるんですか?」


起きて来た彼に私は不自然に見えない笑みを浮かべ言う。


「ちょっとねぇ。

いや、宗助君に襲われちゃったなぁーって」

「あ…ごめんなさい」


自分が悪いと思ってしまったのか彼が恐縮気味に返事をする。


「大丈夫。

でも、今日の事は二人だけの秘密だからね」

「…わ、分かりました。

絶対誰にも言いません」

「流石宗助君。

君は良い子だよ」


本当に都合が良い子だよ。


私はため息と共にタバコの煙を吐いた。


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