目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

0623 手編みのマフラー

「クリスマスのプレゼントはハンドメイド品を互いにプレゼントするなんてどうかな?」


一月前の11月半ばに出されたその提案に私は乗った。

恐らく、私。佐々木佐紀の借金の事を気遣ってその提案をしてくれたのだろう。


一昨年、サイドブレーキの引き忘れとと言うしょうもないミスで大事故を起こしてしまった私は決して少なくはない借金を背負っていた。

そんな馬鹿な私の事を好いてくれた彼は去年のクリスマスに告白され、早丸一年である。


付き合い始めた記念日であり、クリスマスという特別な日。

私はその日の為に手編みのマフラーを作ろうと決心した。


「成程。

良い彼氏じゃん」


事情を話すと元手芸部であり、高校以来の友人のマリは感心したようにつぶやいた。


「てか借金の事初めて聞いたんだけど」

「そりゃ言いふらす事じゃないし言わないよ」

「まぁそっか。

で、返せそうなの?」

「うん。ボーナスゼンツッパして後1年かな。

来年のクリスマスは二人で良い店に行くんだ」

「おぉ、偉い。

でもクリスマスくらい彼氏に甘えたら?」

「いや、今家賃、食費、電気代全部彼氏持ちだからそこまで甘えられない」

「おぉ、スパダリじゃん」

「うん。それどころか料理が私より格段に上手いから食事は全部彼任せ」

「…それ佐紀が紐じゃん」

「掃除とか洗濯は私がやってるからね!

でもだからこそこんなことで甘えたら立つ瀬が無いんだよ。

ってか借金すら肩代わりされそうになったんだから!!」


自他共に認めるポンコツの私が自分の重荷すら彼に背負わせたら何が残るのか…。

ダメ人間になる自分が安易に想像できてしまい鳥肌が立ったので、編み物意識を戻す。


「…多分そういう真面目な所に惚れられたんだろうね」

「うん。それは彼からも言われてる」


真面目。直向き。そして堅実。

それが彼からの評価。


「でもこんな私で良いのかなとはときどき思うよ」

「いや、とってもいい事だと思うよ」


マリは伸び続けている私のマフラーを掴んだ。


「ほら、こういう縫い目すらめっちゃ綺麗だし。

佐紀の良い所はこんな風に見てすぐ分かるものだよ」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?