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0626 冷たい頬

初て触れた死体は祖父だった。

色白になった祖父の顔に触れた瞬間あまりの冷たさに驚いたのを今も覚えている。


その後しばらくしてその感覚が市販の鶏肉に触れた時と同じだと気づき「肉の塊」なんだなー。と落ち着いてしまった。


多分これが僕の倫理観の枷が外れた最初の瞬間だったと思う。


そこから魚、鳥、ネズミ、虫と身近な死体に触れていき、ある日猫の死体を興味本位で開き、卯曲折あり今現在再び人間の死体に触れている。


心の中でちょっとした理性を働かせながらも若い男性の死体をくまなく触れていき結論を出す。


「注射痕一つ見つかりませんね。

もし毒殺だとするなら直接毒を飲ませるか尻から突っ込むかの二択ですね」

「だとしたら解剖するか?」

「まぁ順当に行くならそうなんですけど多分コレ理由なんて見つかりませんよ」

「どうしてそんなこと言えるんだ?」

「今月に入って同じような仏さんが3人来てます。

皆解剖しましたけど薬物の反応は一切無し。

表でも他に何件か同じ事が起きているみたいです。

解剖しないならそのまま表に回してさよならバイバイも出来るんで費用節約できますよ」

「そうか…。

ならそうさせてもらう」

「そうですか。ではそれで」

「ありがとうな、掃除屋」

「どういたしまして。」


―――と、ここで仕事は終了。

自分は意識を切り替えて彼。土方さんに問う。


「そんな事より土方さん。ここからは友人としての話なんですけど良いですか?」

「あ、何だ?」

「この人もらっていいですか?」


沈黙が返ってきて思わずやらかしたかなぁー…。と思い返す。


「いや、やっぱいいです」


彼は眉間に皺を寄せていた。

その場で何度か回転したり腕を組んだり、頭を掻いたり。


数分の長考の後彼は聞いてきた。


「…お前コレ何に使うんだ?」


これは…、正直に言った方が良いだろうか…。

いや、もう言っちゃったし隠しても仕方ないだろう


「ホルマリン漬けにしたいなって思ってます」

「お前…俺だけに飽き足らず見ず知らずの遺体も集めてたのか?」

「まぁ。

男性女性を年齢ごとに何種類k「あぁ!!そこまで言うな!」」


土方さんは話を遮り止めた。


「お前…ホント恐れ知らずだよな」

「いや、僕はビビりですよ」

「ビビってる奴は裏の仕事も死体集めもやらねぇんだよ!」


―――と、そんな話をした後結局僕はその男の遺体を手に入れた。


彼が返ってから死体を見つつ考える。

宗教的な考えや道徳的な考えを僕は見下している訳じゃない。


確かに法律に違反しているが死体の扱いをとやかく言われるのはあまりいい気がしない。


僕が集める死体はあくまで身寄りのない人達。

家族や友達がいる人達から無理やり奪ってるわけじゃないし下手に扱っているわけでもないし、死体を利用する事はしていない。


死体は誰かの生きた証だ。


確かに生きている時の様に雄弁に語ることは無いが死体は情報の塊である。

その情報を燃やし尽くすというのはどうかと思う。


安易に全ての遺体を保存しとけという訳ではない。

だが、年代別や人種、身長別に一式死体があれば誰かの役に立つはずだ。


この世に残っている遺体はあまりにも少ない。

それを頑張って増やしているのに良く分からない勝手な考えで自分の生きがいを否定されるのはやっぱり胸糞悪い。


そんな苦い思いをグッと飲み込んで死体が綺麗な内に処理を始めるのだった。

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