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0629 チェリー

小道を埋め尽くす美しい薄桃色。

ハラリハラリと空を舞う花弁。

新緑交じりの桜の木々。


ゆったりと歩く彼は感動しているのか口と目が開いたままだった。


『ヨージ。この花は何の花かい?』


英語で彼、ジョージが聞いて来たが俺は回答に詰まった。

日本語で言うなら「桜」だが英語では何だったか…。


「『えっと…「サクラ」って言うんだけど…』佐奈。桜って英語でなんて言うんだっけ?」

「洋治君。チェリーじゃないかな?」

『桜か!

見るのは初めてだな』


隣にいた友達である佐奈に助け舟を出してもらい納得する。

サクランボと桜がすぐに結びつかなかったが確かに桜は『チェリー』である。


「『日本の、重要の花』」

「『日本の国花なんだよ』」

『へぇ。これが日本の花なのか。

どんな意味があるんだい?』


佐奈のカタコト英語に補足を入れれば、思いもよらぬ質問が飛んできた。

分からないのでスマホで検索。


「『えっと…、精神美、優美な女性、純潔だってさ。

日本の精神性や散り際の潔さを表しているらしい』」

『なるほど…』

「『そう言えばアメリカの国花は何なんだい?』」


聞き返すとジョージもスマホを取り出し調べる。


『薔薇だってさ。

愛国心。命と愛の象徴なんだって』

「『へぇ…』。

アメリカの国花は薔薇で、愛国心と命と愛の象徴って意味があるらしい」

「そうなんだ。

薔薇だと情熱って意味もあったりするよね」

「なるほど『薔薇には情熱って意味もあるんだってさ』」

『へぇ。自分の国の事だけど知らなかったわ。

それにしても日本の桜はこんなにも綺麗だとは思わなかったよ』

「『これでも散りかけだけどな。

満開の状態は1週間続くかどうかなんだよ』」

『次は満開の時に来てみたいな』

「『咲く時期がめっちゃシビアだけどな』」

「『ジョージ。私も来年も、花見たい。』」

『そうだね。

その時までには日本語が使えるかな…』

「『日本語は難しいから佐奈の英語が完璧になる方が早いと思うぞ』」

『ハハ、そりゃ楽しみだ』

「『頑張る』」


佐奈が握り拳を見せたのが可愛い。


『なら「しょーぶ」だね』

「You can't beat me『(私には勝てないよ)』」

『ハハッ!「クソクラエ!」』

「『いや、ジョージ、それちょっと違う』」


三人で笑った。


――――――と言うのが去年の話である。


期待を胸にやって来た春。

ジョージの来日もベストタイミングかと思われたが、花見前日に大雨が降った。


『なんてこった…』

「諸行無常だね…」

「…これだから日本の桜って難しいんだよなぁ…」


さて、ジョージに満開の桜を見せられるのはいつになるのか…

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