小道を埋め尽くす美しい薄桃色。
ハラリハラリと空を舞う花弁。
新緑交じりの桜の木々。
ゆったりと歩く彼は感動しているのか口と目が開いたままだった。
『ヨージ。この花は何の花かい?』
英語で彼、ジョージが聞いて来たが俺は回答に詰まった。
日本語で言うなら「桜」だが英語では何だったか…。
「『えっと…「サクラ」って言うんだけど…』佐奈。桜って英語でなんて言うんだっけ?」
「洋治君。チェリーじゃないかな?」
『桜か!
見るのは初めてだな』
隣にいた友達である佐奈に助け舟を出してもらい納得する。
サクランボと桜がすぐに結びつかなかったが確かに桜は『チェリー』である。
「『日本の、重要の花』」
「『日本の国花なんだよ』」
『へぇ。これが日本の花なのか。
どんな意味があるんだい?』
佐奈のカタコト英語に補足を入れれば、思いもよらぬ質問が飛んできた。
分からないのでスマホで検索。
「『えっと…、精神美、優美な女性、純潔だってさ。
日本の精神性や散り際の潔さを表しているらしい』」
『なるほど…』
「『そう言えばアメリカの国花は何なんだい?』」
聞き返すとジョージもスマホを取り出し調べる。
『薔薇だってさ。
愛国心。命と愛の象徴なんだって』
「『へぇ…』。
アメリカの国花は薔薇で、愛国心と命と愛の象徴って意味があるらしい」
「そうなんだ。
薔薇だと情熱って意味もあったりするよね」
「なるほど『薔薇には情熱って意味もあるんだってさ』」
『へぇ。自分の国の事だけど知らなかったわ。
それにしても日本の桜はこんなにも綺麗だとは思わなかったよ』
「『これでも散りかけだけどな。
満開の状態は1週間続くかどうかなんだよ』」
『次は満開の時に来てみたいな』
「『咲く時期がめっちゃシビアだけどな』」
「『ジョージ。私も来年も、花見たい。』」
『そうだね。
その時までには日本語が使えるかな…』
「『日本語は難しいから佐奈の英語が完璧になる方が早いと思うぞ』」
『ハハ、そりゃ楽しみだ』
「『頑張る』」
佐奈が握り拳を見せたのが可愛い。
『なら「しょーぶ」だね』
「You can't beat me『(私には勝てないよ)』」
『ハハッ!「クソクラエ!」』
「『いや、ジョージ、それちょっと違う』」
三人で笑った。
――――――と言うのが去年の話である。
期待を胸にやって来た春。
ジョージの来日もベストタイミングかと思われたが、花見前日に大雨が降った。
『なんてこった…』
「諸行無常だね…」
「…これだから日本の桜って難しいんだよなぁ…」
さて、ジョージに満開の桜を見せられるのはいつになるのか…