名人戦の最終局面。
音は聞こえない、相手が誰かも関係ない。
目の前の盤を目に焼き付けてから静かに目を閉じる。
脳裏に焼き付いた盤の駒を走らせる
不可。
王を取られる流れが見え、盤を元に戻して再び走らせる。
不可。
別の方向から走らせる。
不可。
再度走らせる。
不可。
走らせる。
不可
走る。
不可
走
不可
h---不可
―――止まりそうになった思考を再起動させた。
再び目を開け状況を見直す。
この盤面確かに見た事がある。
そしてこの盤面から逆転した奴が過去にいた。
誰だ?そしていつだ??
再び目を閉じ考える。
記憶を遡る。
遡る
遡。
あった!
思考を再び走らせ―――あ。
走らせてから思わず口元が笑ってしまった。
後は…見逃しが無い事を天運に任せる他無いだろう。
僕は駒を動かす。
***
そこからはスピーディーに試合が進み、32手の後、名人が投了した。