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0702 純愛

とある大学のとある研究室にて…。


***


博士がパソコンを弄る手を止めた。

仕事が完全に終わったのか、ノートパソコンをその場に閉じて伸びをする。


十数秒の長い伸びの後、彼女は全身から力を抜いて椅子にもたれかかった。


「さて、今回の研究は終わりだ」

「お疲れ様です」

「いやー…トラブルはあったけど面白い結果が得られてよかったよ」

「博士の執念の賜物ですね」

「執念と言うと何だか気持ち悪いね…。

そうだなー…」


博士は言葉に詰まりそれからそのままの体制で宙を向いた。

10秒、20秒と待ち続けてから「愛と言ってほしいかも」と小声で愚痴る。


どう反応しようか悩んでいると彼女が席を立ちあがる。


「それより小暮君。愛と恋の違いって話はしたことがあったよね。」

「はい。見返りを求めない気持ちや行動が「愛」で見返りを求めるのが「恋」ですよね」

「うん。

今さっき、私は薬への好意を愛と言おうと思ったんだがふと気づいてしまった。

私は薬品に効能を期待しているから私が持っているのは薬への愛ではなく恋なのではないかと…」

「ナニ変な所で迷ってるんですか?

トンチとかいりませんって。

それに恋も愛もそんな明確な定義何てないものでしょ」


博士は詰まらなさそうに俺の事を見てから白衣を脱いで着替え始めた。


「確かにそうだ。

人間の生殖行為も愛するって言う癖に大抵自分本位な行動だしね」

「それは単純に皮肉ってるんじゃないんですか?

愛するとは言った物の相手に愛されて自分はただいたしているだけ…みたいな。

どっかの歌の歌詞にあった気がします」

「なるほど…性欲は皮肉的な愛か…。

なら小暮君、「純愛」とは何だろうか?」


恐らく博士は性愛の反対として純愛を出したのだろう。

性愛。つまるところ愛される行為の反対…。


「…その理屈で言うなら純愛は「献身」なんじゃないっすかね」


そろそろ動き出さなければ終電の電車が出てしまう。


「なら小暮君。

僕を君の家でも何でも連れ帰って「愛して」くれたまえ」

「いや、自分の家のことぐらい自分でしてください、お疲れ様です」


これ以上絡んだら本当に掃除から家事から何まで身の周りの世話をさせられそうだったので足早に研究室を出た。



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