日毎に男をとっかえひっかえし、8股していた私は浮気がバレて殺されたらしい。
どうやらこの世には地獄なる物があるようで私は神判(?)の時を待っていた。
恐らく閻魔と思われる地獄の主らしき大男が列を成す輩に判決を一人ずつ言い渡している。
一人一人弁解や弁明も聞いてはいるようだが大抵怒鳴り声一つで一蹴されていた。
閻魔に嘘は通じないというのは本当らしい。
―――と、神判を待つ待機列。壁に設置された神判のライブ中継を見ながら私は助かる方法を考えていた。
まず考えたのは言い逃れの常套手段の一つ。嘘で事実を挿げ替えるという物があるが閻魔相手に使え無さそうだ。
次に考えたのは脱走。
考えようとした矢先、列をこっそり抜け出そうとした馬鹿者が瞬く間に監視していた鬼に捕まり見るも無残な姿に変えられていた。
そしてその時の鬼の動くスピードと言ったら人間じゃ絶対に勝てなさそうなのでこれも論外。
色々考えつつモニターのライブ中継を見ているとある一人の男が何かを言った。
その言葉自体は聞き逃したのだが、閻魔は怒鳴らずに一考し、閻魔の隣にいた青い鬼も閻魔に何か話していた。
わざと音を消しているのか静寂。
少しの間、閻魔と閻魔の隣で秘書らしきことをしていた青鬼が話し合い結論を出す。
「減刑」だった。
私はそれに驚いて口が開いてしまった。
どうやらあの閻魔理不尽な上司みたいに怒り続けている訳ではないらしい。
ディズニーランドの数百倍の長蛇の列を過ごす苦痛を耐える間に私は一つの作戦を決意した。
***
「では名を聞こう」
「春島恵と申します」
神判が始まった。
閻魔は相変わらずの怖い表情で私に高圧的に接してくるがそこは何食わぬ顔で耐えた。
「貴様の罪は分かっているな」
「はい。私の罪は数多との男の淫行でございます」
「ならば―――」「---ですので!私は自分の罪を悔い改め一人の男のみを愛しましょう。
申し訳ございません、そちらの青鬼様。
お名前をお聞きしても?」
青鬼は厳つい顔で私を一瞥。
「蒼炎ノ谷ノ風来松と言う」
「蒼炎の谷の風来松殿。生涯を共にする方はいらっしゃいますか?」
さて、ここでいると言われれば一生の終わり。
だが今まで何日か良く分からない期間待たされた私が考えた一番勝率の高い方法。
「私は一人の身ではあります」
「蒼炎の谷の風来松殿。
私を貴方の嫁にしてはいただけませんでしょうか」
沈黙と共に青鬼が目を伏せる。
私はこの長い長い待ち時間の間どうすれば良いのか本気で考えて来た。
そして考え付いたのが諦めと言う名の減刑である。
地獄の阿鼻叫喚は嫌だがせめて心を入れ替え、あの青いアントニオ伊野木風の鬼に一生涯仕えよう。本気でそう考え、信じ込ませてきた。
長い。長い時間の後、青鬼は目を開き、落ち着いた声色で言う。
「貴殿の話大変うれしく思うがお断りさせていただく」
「何故ですか?」
「貴方は私の嫁になりたい。そうおっしゃいましたね?」
「はい」
「私は小言を言われることが何よりも嫌いなのだ。
『鬼の嫁』を取る気にはなれぬ」
「バフッ」と、思いもよらぬ音が響き音の発生源を見上げれば「がっはっはッ」と閻魔が笑っていた。
「女ぁ!
婿にもらい受けると言えばよかったなぁ!
鬼の嫁で鬼嫁か!
風来松のそんな冗談久々に聞いたぞ」
腹を抱え笑う閻魔。手元の資料に目を落とす風来松。
残される私。
「春島恵さん。あなたあそこの緑の鬼について行って転生直行で。
次の方」
許されたらしいが納得は出来なかった。