この世界真っ当に生きるよりちょっとずるした方が生きやすい。
その事に気づいたのは中学生の時だったがその時から俺は小さな犯罪に手を染め始めた。
最初は近所のスーパーでの窃盗から始まり、高校の時にはスリで小遣を稼ぎ大人になる頃には何食わぬ顔で会社員をしながら裏で計画的な犯罪を進めていた。
計画的な犯罪と言えば盛大に聞こえるが簡単に言えば単独犯の空き巣である。
俺は毎月の様に一軒から二軒ほど空き巣を行い月5万円ほどの臨時収入を獲得していた。
だがしかし30過ぎ。回数にして優に120回以上の空き巣を繰り返しているが俺は一向にお縄にならない。
何故なら別の休日に作成したハンドメイドアクセサリーの販売で収入を得ている様に見せかけマネーロンダリングし収入を偽り、空き巣に入る家には家主の正確な情報を手に入れ『家計管理が甘い』家ばかりを狙う事で空き巣に入った事を悟らせないようにしているからである。
ただ最近空き巣がをし過ぎてアリバイ作りが困難になってきてからそろそろ空き巣も限界になってきたかもしれない。
とは言えもうすでにFIRE(経済的自立及び早期リタイア)しても良いくらいの蓄えがある為31になったら空き巣を辞めようと決心した次の日俺はヤバい現場に立ち会ってしまった。
「あ…どうも」
「どうも…」
ここ数日出入りが無く家の照明もついていない事を確認していたのにその家に住人がいた。
まぁそれだけなら今までにも無くはないのだがその住人がやっていた事がヤバすぎた。
氷漬けにされた成人男性らしき人の体を糸鋸で切断していたのである。
男は四肢の内両足と右手が無く、現在切られているのは左腕。
クーラーが恐ろしいほど効いている部屋で額に汗を浮かべながら立ち尽くし、右手に糸鋸を携えた女性と出会ってしまった。
俺は事前情報はしっかりと調べるタイプなので彼女が誰なのか知っていたし氷漬けの死体が誰なのかも分かった。
この家の旦那と妻である。
「…えっと、何してるんですか?」
「いえ、それはこっちのセリフです」
「……」
「…ちょっと話し合いましょうか」
そう言いながら彼女は旦那の体を持ち上げ部屋の傍らにあるコンビニでアイスが並べられている様な業務用冷蔵庫にほぼ胴体だけの旦那を詰め込んだ。凄い手慣れた動作で。
彼女が振り返ってこっちを見る前に俺は全力疾走し家の中の走って侵入した窓から逃げた。