異世界でしばらくノンビリした後。
夏休みが終わる子供の気分になりながら、俺は仕事へ行くことにした。
時間調整ができるから、どれだけ異世界にいてもいいんだけど。
現実世界でしか手に入らない物を買うお金が欲しいから働きに出た。
「来栖くん、なんだか御機嫌だけど、何か良いことあった?」
派遣先のドラッグストア。
倉庫で作業していたら、一緒に作業中の御堂さんが微笑みながら問う。
薬剤師・御堂沙也さん。
色白の滑らかな肌に、柔らかそうな栗色の髪、睫毛が長い大きな瞳は紅茶色で、ハーフっぽい容姿をもっている。
女優さんか? ってくらい綺麗な女性で、男性従業員たちの憧れの人だ。
「え? そんな感じしますか?」
「うん。いつも真顔で黙々と作業するのに、今日は楽しそうにしてるから」
商品リストを手渡しつつ、御堂さんがまた微笑む。
俺の仕事は裏方作業の倉庫整理、まあ基本的に真顔になるのはしょうがない。
しかし今日は楽しそうに見える? なんでだろ?
「もしかして、猫ちゃん飼い始めた?」
「えぇっ?!」
「もしかして正解?」
「え~と……どこからそんな情報を?」
めっちゃ動揺する俺を見て、御堂さんはクスクス笑った。
御堂さん、あなたはエスパーか?!
なんで俺が誰にも言ってないことが分かるの?!
「だって来栖くん、キャットフードの成分表をじっと見たりするんだもの」
「あ~……そこからデスカ……」
訂正。
御堂さんはエスパーではなく探偵かもしれない。
っていうか御堂さん、作業しながら俺の方を見てたの?
「それに今朝、出勤前にホームセンターでキャットフード買ってたでしょ?」
「えっ? 見てたんですか?!」
「うん。私はドッグフードコーナーにいたんだけど、来栖くんは気付かなかったね」
どうやら俺は、知り合いがすぐ隣のコーナーにいたのに気付かずに通り過ぎていたらしい。
まあ、あのときは異世界への引っ越しで頭がいっぱいで、キャットフード以外見てなかった気がする。
「猫ちゃん飼ってるなら、これあげる。試供品のキャットフードだけどオススメよ」
「あ、ありがとうございます」
御堂さんはニッコリ笑って、小袋が幾つか入った紙袋をくれた。
男性従業員一同の憧れ、御堂さんからプレゼントを頂いたぞ~!
……キャットフードだけどな。
「猫ちゃん何匹いるの?」
「5匹です」
「凄いね、一気に5匹も飼い始めるなんて」
「公園に段ボールに入れられて置かれてたから、拾っちゃったんですよ」
「来栖くん、優しいんだね」
御堂さんは微笑んで褒めてくれるけれど。
俺が自主的に拾ったワケじゃないから、誤解が申し訳ない。
しかしさすがに猫神様に命じられたなんて言えないから、自分の意思で拾ったことにしておくよ。