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第30話:ルクスとカリカリ


「ミィ~」

「ミィ~」

「キュウ~」

「キュ~」


 仕事を終えて家に帰ったら、仔猫たちが揃ってこちらを見上げて鳴きだした。

 ヨチヨチ歩き回り始めた頃からたまにこっち見たりしてたけど。

 こんな一斉に見られたのは初めてだ。

 何か話しかけられてる気がする。

 とりあえず可愛いの集合体を見て癒された。


「え? 何? なんて言ってるの?」

「腹が減った、なんかくれと言っておるんじゃよ」


 猫たちの言葉は分からないけど、うちには通訳がいるんだ。

 俺が困惑していたら、巨大フサフサ茶トラが二足歩行で歩きながら液状オヤツとカリカリを持ってきて言う。

 それぞれ小皿に入れてチビたちの近くに置くと、みんな集まって匂いを嗅ぎ始める。


「そろそろ乳離れの時期じゃな」

「えっ? もう?」

「猫の子は生まれて1ヶ月くらいで母乳以外の物を口にし始めるんじゃよ」


 見ていると、匂いを嗅いでいるうちに鼻にチョンとついてしまった液状オヤツを舐めたりしている。

 俺が床に座って箱の縁から覗いていたら、何故かルカが俺の隣に座り、並んで箱の中を覗く。


「離乳食とか作ってあげた方がいいのかな」

「み?」

「ミイッ」

「って、ルクスいきなり? カリカリ食い始めたぞ?」


 離乳食作ってる暇、なかったよ。

 ルクスはいきなりドライフードを口に入れて咀嚼し始めた。


 え? 食うの? 硬くない?

 顔を傾けてあぐあぐしながら食ってる。

 大丈夫? 喉に詰まらせたりしない?

 そういや、歯って生えてるのか?


「ほつほっほっ、ルクスは逞しいのぅ」

「離乳食スッ飛ばして、カリカリストレートコースとは思わなかったよ」

「母猫が食べるのを見ておるからな。食べ物として認識したんじゃろう」


 猫神様はほっこりしながら見ている。

 なので俺も心配するのはやめて、ドライフードを頬張るルクスを眺めた。

 猫神様が箱の中に置いたカリカリは、仔猫と授乳期の母猫用。

 御堂さんがくれた試供品のキャットフードだ。

 ルカに食べさせていたとき、仔猫たちが周りに集まっているのはよく見かけた。


「鳥や動物は、親の食事を見て食べ物を覚えるもんじゃよ」

「そっか、そういうもんなんだね。初めてのカリカリ食べてるとこ撮影しよう」


 って寝室へスマホを取りに行き、戻ってみたらルクスはもうカリカリを食べるのをやめていた。

 残念、我が子のお食い初めを撮影しそこねたお父さんの気分だぜ。


「ルクス~、もう1回カリカリ食べてみて?」

「……」


 リクエストしてみたけど、ルクスは黙って上目遣いでこっち見ただけだった。

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