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第29話:職場のティータイム


「これ、1人で食べきれないからみんなで食べて」


 現実世界、出勤日。

 俺は自分で作ったベイクドチーズケーキを職場に持っていった。


「いい香り~! これ絶対美味しいやつね!」

「お! 美味そう! 休憩時間が楽しみだ」

「私、今から休憩~、ふふっ、最初の1切れ頂くね!」


 休憩室の冷蔵庫に入れていたら、通りすがりのスタッフたちがみんな覗きにきたよ。

 職場のみんなは男女問わずスイーツ大好きだ。

 誰かが差し入れにお菓子を持ってくることはよくあり、休憩室には紅茶とコーヒーが常備されている。


「チーズケーキだぁ。来栖くん、どうしたのこれ?」

「知り合いがくれたんだよ」


 聞かれるのは想定内。

 自分で作ったって言うと材料とか聞かれそう。

 買ったと言うと店を聞かれそう。

 どっちも答えられないから、貰ったことにしておこう。


「ごちそうさま! 美味しかった~」

「柑橘系の香りが好みにヒットしたよ~、どこで売ってるのか聞いた?」

「あれは知人の手作りだよ。レシピはネットで調べて適当にアレンジしたって言ってた」

「そうなんだ。知り合いさんスイーツ作り上手だね」

「職場の人が褒めてたって言っておくよ」


 貰い物だと言えば聞かれそうなことも想定内。

 手作りなのは本当だし、レシピに関しても嘘は言っていない。

 誉め言葉は、知り合いに伝えるフリしてコッソリ俺が喜んでおこう。


「……もしかして、作ったのは来栖くん?」


 いきなり鋭いのは御堂さん。

 聞かれた俺がギクッとしたの、気付かれたかもしれない。

 他のスタッフがいないときでよかった。


「えっ? どうしてそう思うんですか?」

「だって来栖くん、あの店のチーズケーキ凄く気に入ってたみたいだし」


 確かに、映画館帰りに行った店のベイクドチーズケーキは絶品だった。

 でも何故そこから、このケーキを俺が作ったと思うに至るんだろうか?


「来栖くん自炊してるって言ってたから、チーズケーキの1つや2つ作れるでしょう?」

「そ、そうですかね?」


 知的美女には勝てない気がする。

 俺が焦っていると、御堂さんはクスッと笑った。


「……すいません俺が作りました。他の人には内緒でお願いします」


 俺は観念して、自分の手作りであることを白状した。

 口止めしておけば、御堂さんは他人に言いふらすような人じゃない。


「わかったわ。黙っておいてあげる。その代わり、また一緒に食事に行ってくれる?」

「は、はい。喜んで」


 御堂さんは微笑んで承諾してくれた。

 まさかの2回目デート(?)リクエストがきたけど。

 今度はどんなレストランだろう?



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