「これ、1人で食べきれないからみんなで食べて」
現実世界、出勤日。
俺は自分で作ったベイクドチーズケーキを職場に持っていった。
「いい香り~! これ絶対美味しいやつね!」
「お! 美味そう! 休憩時間が楽しみだ」
「私、今から休憩~、ふふっ、最初の1切れ頂くね!」
休憩室の冷蔵庫に入れていたら、通りすがりのスタッフたちがみんな覗きにきたよ。
職場のみんなは男女問わずスイーツ大好きだ。
誰かが差し入れにお菓子を持ってくることはよくあり、休憩室には紅茶とコーヒーが常備されている。
「チーズケーキだぁ。来栖くん、どうしたのこれ?」
「知り合いがくれたんだよ」
聞かれるのは想定内。
自分で作ったって言うと材料とか聞かれそう。
買ったと言うと店を聞かれそう。
どっちも答えられないから、貰ったことにしておこう。
「ごちそうさま! 美味しかった~」
「柑橘系の香りが好みにヒットしたよ~、どこで売ってるのか聞いた?」
「あれは知人の手作りだよ。レシピはネットで調べて適当にアレンジしたって言ってた」
「そうなんだ。知り合いさんスイーツ作り上手だね」
「職場の人が褒めてたって言っておくよ」
貰い物だと言えば聞かれそうなことも想定内。
手作りなのは本当だし、レシピに関しても嘘は言っていない。
誉め言葉は、知り合いに伝えるフリしてコッソリ俺が喜んでおこう。
「……もしかして、作ったのは来栖くん?」
いきなり鋭いのは御堂さん。
聞かれた俺がギクッとしたの、気付かれたかもしれない。
他のスタッフがいないときでよかった。
「えっ? どうしてそう思うんですか?」
「だって来栖くん、あの店のチーズケーキ凄く気に入ってたみたいだし」
確かに、映画館帰りに行った店のベイクドチーズケーキは絶品だった。
でも何故そこから、このケーキを俺が作ったと思うに至るんだろうか?
「来栖くん自炊してるって言ってたから、チーズケーキの1つや2つ作れるでしょう?」
「そ、そうですかね?」
知的美女には勝てない気がする。
俺が焦っていると、御堂さんはクスッと笑った。
「……すいません俺が作りました。他の人には内緒でお願いします」
俺は観念して、自分の手作りであることを白状した。
口止めしておけば、御堂さんは他人に言いふらすような人じゃない。
「わかったわ。黙っておいてあげる。その代わり、また一緒に食事に行ってくれる?」
「は、はい。喜んで」
御堂さんは微笑んで承諾してくれた。
まさかの2回目デート(?)リクエストがきたけど。
今度はどんなレストランだろう?