異世界の自宅。
俺以外の人間はいない小さな島の森の中、俺以外の人間が来ることはない家。
友人知人を呼ぶことはできないけれど、俺は全く寂しくない。
猫神様やルカファミリーがいるから、むしろ賑やかで楽しい。
「ん?」
「チィ、チィ」
ヨチヨチ歩き回る毛玉たちを眺めていた俺は、ふと気付いて1匹をワシ掴みにした。
掴まれた仔猫はキョトンとした後、何か言うように鳴き始める。
「みっ?」
「どうしたんじゃ? 聖夜」
俺の隣に座るルカが首を傾げて問いかけるように鳴く。
ソファで長く身体を伸ばして寝そべっている猫神様も聞いてきた。
俺がワシ掴みにしたのは、黒猫ルナ。
掴んだときの手触りが他の子と違う気がする。
「ねえ猫神様、ルナってなんか毛深くない?」
「ん? 猫はみな毛深いのではないか?」
「あ、いやなんていうか、ルナだけ毛が長い? 他の子よりモフモフ感が多いみたいな」
みんな可愛いルカの子供たち。
その毛並みの手触りが、ルナだけやけにモフモフしている。
毛の1本1本の長さが違う感じだ。
あと、毛の密度も他の子と違う。
「ふむ、ルナは我のような長毛猫になるかもしれんのう」
猫神様が、フッサリした茶色い尻尾をフワリと揺らす。
音も立てずにソファから床へ降りると、優雅な足取りで俺の隣に歩み寄ってくる
ルカの反対側、俺の隣に座ると、猫神様は俺の頭よりデカイ頭を摺り寄せた。
「んみっ、みみっ」
何故かルカが張り合うように頭を摺り寄せる。
おかげで俺は、巨大長毛猫と小柄な短毛猫に左右からスリゴロされるという状況に……
……なにこれ? なんのサービス?
「我の毛並みをモフッてみるがよい。長い毛の下に短い綿のような毛がはえておるのが分かるかの?」
「あ、ほんとだフワフワした毛がある」
猫済様に言われて、俺は面積の広い茶トラの毛並みに両手を突っ込んでモフッてみた。
サラサラした手触りの細く長い毛の下に、綿毛が密にはえている。
「これはな、ダブルコートという種類の毛並みじゃ」
「ダブルコート……」
「寒冷対策の毛並みじゃな。ここでは無くても平気じゃが」
「人間の厚着みたいなもんだね。夏は暑そう」
「まあ、我は体表温度を調節できるゆえ、暑くはないがの」
「ルナは暑いかな?」
「この島の気温は猫にとって適温になっておる。問題なかろう」
神の島の気温は体感的に25℃くらい。
エアコンいらず、暑くも寒くもない快適温度だ。
ルナはもしも現実世界で野良猫になってたら、夏は大変だったろうなぁ。
ルカファミリーが棄てられていた公園がある地域は、7~8月には軽く35℃を超えたりするからね。
猛暑日には40℃近くになって熱中症で倒れる人が続出するよ。
そんな過酷な暑さを体験せずに済んで、ルナは運がいいな。