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第32話:御堂さんの体調不良


 現実世界、派遣先のドラッグストア。

 今日は御堂さんの様子がおかしい。

 体調悪いのかな? 顔色があまりよくない気がする。

 作業の合間に少しボーッとしてるのは、彼女には珍しい。


「御堂さん、大丈夫ですか?」

「……え?」


 いつもの倉庫作業中、俺は心配になって声をかけてみた。

 振り返る御堂さんの顔は、もともと色白ではあるけれど、今日は病的な白さになっている。


「顔色よくないですよ。具合悪いんじゃないですか?」

「病気じゃない……か……ら……」


 言ってる途中で、御堂さんはフゥッと力が抜けたように倒れていく。

 近くで作業をしていた俺は、慌てて駆け寄って抱き留めた。

 床に頭や身体をぶつけるのは防げてホッとするが、御堂さんが倒れた原因が何か分からない。

 血の気の引いた青白い顔で、御堂さんはグッタリしている。


(貧血かな? とりあえず休憩室に運ぼう)


 意識のない御堂さんを抱き留めた状態から横抱きに抱え上げて、倉庫からバックヤード側の廊下に出ると、向こうから女性スタッフたちが歩いて来るのが見えた。


「えっ?! 御堂さんどうしたの?!」

「急に倒れたんです。貧血っぽい感じですが、原因は分かりません」


 御堂さんを抱えて休憩室へ向かう俺の後を、女性スタッフ2人がついてくる。

 休憩室に入るとアルバイトの男子学生がコーヒーを飲んでいるところで、運ばれてきた御堂さんを見てビックリしてむせていた。


「ゲホゲホッ! く、来栖ぅ、いきなり御堂さんお姫様抱っこして来るなよぉ……」


 彼は以前、俺と御堂さんが一緒に出かける話を聞いてションボリしていた1人だ。

 自称【御堂さんを愛でる会】メンバーで、あと2人似たような学生バイトがいる。


「緊急事態だから、しょうがない」


 俺は抱えていた御堂さんをそっとソファに寝かせながら言う。

 一緒に来た女性スタッフの1人が、近くの棚からブランケットを持ってきて御堂さんにかけてくれた。


「病院へ連れて行った方がいいかな?」

「貧血での失神なら、そのまま寝かせておけばいいけど」


 そんな話をしていたら、御堂さんの意識が戻り、少し朦朧としながら目を開けた。

 彼女はしばらくボーッと天井を見つめた後、顔を横に向けてこちらへ視線を向けてくる。


「……私……倒れた……?」

「はい」

「ごめんね。迷惑かけちゃったね」

「迷惑とか思わないですよ」


 真面目な御堂さんは、仕事中に倒れたことを気にしているみたいだ。

 でも少なくとも俺は迷惑なんて思わないし、他のスタッフも同じな筈。


「大丈夫ですか? 病院へ行った方がいいならタクシー呼びますよ」

「ううん、大丈夫。ただの貧血だから」


 倒れた原因が分からない俺が心配して言ったら、御堂さんは答えながらチラッと俺の背後にいる女性スタッフたちに目を向ける。

 途端に、何かを察したらしい女性スタッフ2人が、俺とバイト男子を部屋の外へ押し出してしまった。


「はいはい、男子はここまで」

「あとは女子だけでいいから仕事に戻って」

「は、はい」

「あの~……俺休憩中……」


 問答無用で押し出されてしまったよ。

 バイト君は休憩中だけど、他所で休憩しろってことかな?


 病院へ運ばなくていいなら俺の役目はもう無さそう。

 俺は倉庫に戻り、在庫管理作業を続けた。

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