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第40話:越えられる壁


 初めて仔猫と暮らす俺は、彼等の成長の速さとか、運動能力の高さをよく知らない。

 身体の5倍近い高さの壁なんて、梯子が無ければ越えられないだろうと思っていた。

 でも仔猫たちは、生後40日の跳躍力で飛び越えたんだ。


 ゆっくり寝ていられる異世界の自宅。

 遅刻しない安心感と好きなだけ眠れる幸福感に浸りながらウトウトしていた俺は、何かに頭をペシペシ叩かれる感覚を不思議に思いつつ、しばらく放置していた。

 それは例えて言うなら、誰かが小さなヌイグルミの手を持って当てているような?

 しかしここは無人島の一軒家、そんな悪戯をする人間はいない。

 じゃあ何だろう? と疑問に思っていたら、ヌイグルミ本体を投げつけられた?!

 しかも、なんかチクッとしたぞ?!


「痛っ?!」


 大した痛みではないけど驚いて、俺は飛び起きた。

 布団の上に、コロンと転がったキジトラの毛玉が見える。


「え? ステラ?」


 布団の上にいたのは、キジトラ仔猫のステラだった。

 ステラはトテテッとベッドの上を走り、俺にタックルを仕掛けてくる。

 小さいので俺はびくともしないが、頭の中は「?」だらけだ。


「なんでここにいるの?」


 問いかけてもステラはキョトンとして首を傾げるだけ。

 俺はステラを抱っこして、ルカファミリーがいる居間に向かった。


「ルカ~、ステラが寝室に来てたよ」

「み?」

「いつの間に抜け出しておったかのぅ。我も寝ておったゆえ、ちっとも気付かなんだぞい」


 木箱を覗いてみると、ルカと他の3匹の仔猫たちは揃って中にいる。

 ステラだけ何故寝室に来ていたんだろう?

 ルカも猫神様も分からなかったらしい。


「居間も寝室も扉は開いてたから移動してくるのは不思議じゃないけど、箱からどうやって出たのかな?」


 問いかけながら、俺はステラを木箱の中に戻す。

 3秒後、ステラは行動でその問いに答えた。


「……」


 無言で、ステラは小さな四肢に力を溜め、ピョーンと跳ぶ。

 小さな仔猫が、自分の身体の5倍はある木箱の縁を越えた。


「え……えぇっ?!」

「ほう、もうそんな跳躍力を得ておるのか」


 めちゃくちゃ驚いた俺に比べて、猫神様は冷静だ。

 一緒に見ていたルカも、それほど驚く様子は無かった。

 木箱から飛び出したステラは居間の中をあっちへこっちへ転がるように走り回る。

 その後、俺に駆け寄ると大ジャンプして飛びつき、寝間着にしている甚平の布地をガシガシよじ登って俺の肩まで到達した。


「えっ?! この高さまで登れちゃうの?!」


 俺が驚いた直後、なんと残り3匹の仔猫たちが、木箱から一斉に飛び出してくる。

 まるでイルカショーの大ジャンプのようだ。

 そして何故か残り3匹もタタタッと駆け寄ってきて飛びつき、俺の肩までよじ登った。

 先に登っていたステラは、肩から頭の上に移動している。


「ふほほっ、聖夜はキャットタワー代わりか」

「俺、遊具扱い? ……っていうか、みんな凄いな」


 ほんの1ヶ月前まで、ほとんど寝てばかりだったのに。

 それが今で、は跳んで走って登ってる。

 仔猫の成長の速さにビックリだ。

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