異世界の自宅。
仕事を終えて帰宅した俺は、ただいまを言って撫でようとしたら、ルカに匂いを嗅ぎまくられた。
ルカファミリーの寝床として作った木箱の前で、俺はなんとなく正座になってしまう。
「みっ、みみっ」
「ルカ、なんでそんなに嗅ぐの?」
ルカは特に俺のGパンの太腿辺りを、調べるように嗅いでいる。
いつもは仕事から帰っても嗅がれたりしないので、俺はルカに聞いてみた。
「みっ」
「ふほほっ、まるで亭主の浮気をチェックする妻のようじゃのぅ」
ルカは一瞬俺を見上げて短く鳴いて、また念入りに匂いを嗅ぎ始める。
猫神様が、ソファで悠々と寝そべりながら笑って言った。
「浮気って……」
「聖夜よ、現実世界で動物を膝に乗せたのではないか?」
ルカに嗅ぎまくられながら、困惑する俺。
すると猫神様は大きな欠伸をした後に、ヒントをくれた。
「あ、そういえば御堂さんちの犬が膝に乗ってきたな」
「やはりのぅ。それじゃよ、ルカが嗅いでおる匂いは」
それで俺はようやく嗅がれる理由が分かった。
ルカは俺のGパンについたムスタの匂いを嗅いでいるんだ。
俺は御堂さん宅でムスタに膝に乗られたのでモフった後、そのまま仕事に行って帰宅したから。
着ている服にはムスタの匂いが残っていた。
「みみっ?」
「ルカは、なんて言ってるの?」
「『この匂いは誰?』と聞いておるぞ」
通訳つきで猫と暮らしていると、こういうときに意思疎通が楽でいいね。
その代わり、なに言ってるか分からないのを理由にごまかせないけど。
俺は別にやましいことはしていないので、答えてあげた。
「会社の人が飼っているわんちゃんだよ。届け物をしに行ったら膝に乗ってきたんだ」
「みみっ、みっみっ」
「『私はまだ乗ったことがないのに』と言っておるぞ」
……なんか、通訳を通して浮気を問い詰められている気分になってきた。
「んみっ、みみっ」
「『聖夜はルカのだからね』と言っておるぞ」
「うん、なんとなくそう言われてる気がしたよ」
もはや通訳されるまでもなく、ルカが何を言っているのか分かる。
ルカは匂いを嗅ぐのをやめて、正座したままの俺の膝の上に乗ってきた。
甘えにきたのかと思いきや、まるで自分の匂いでムスタの匂いを消すように、何度も頭や身体をすりつけてくる。
「……スリゴロって匂い付けだったのか……」
俺は猫がスリゴロするワケを理解した。
膝の上で伸び上がったルカは、今度は俺の胸の辺りに頭をすりつける。
念入りな匂い付けだ。
ルカは満足したのか、木箱の中へヒラリと飛んで戻っていった。
でもこの服、この後洗濯するんだけど……
俺もこれから風呂に入るので、せっかく付けた匂いが消えるけど、いいのかな?