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第60話:手紙


異世界、誰もいない村の中。

いつの間にか夜は明けていて、大きな穴が開いた壁から朝日の光が室内に差し込んでいる。

女性の自宅のリビングに入った俺は、テーブルの上に1通の手紙を置いた。



セーヤさんへ

人食い熊の襲撃を受けて、村は壊滅してしまいました。

でも、ここにいた女性とお腹の赤ちゃんは無事です。

アケト・マヌの南島に来て下さい。

2人を保護した者より



吹き込む風に飛ばされないように、石で重しをして。

セーヤがこれを見て南島へ来てくれることを祈りつつ、俺は村を出た。


とりあえず、今回のことをユガフ様に報告しよう。

朝になっても俺が帰らなかったら、ルカも心配するだろうし。

俺は空間移動で自宅へ帰った。


「おかえり聖夜」

「みっ、みみっ」


自宅の居間へ入ると、いつもの顔ぶれが迎えてくれる。

それが今はとても大切に思える。

ホッとしたら視界が少しぼやけて、俺の頬を涙が伝って落ちた。


「どうしたのじゃ? 何故泣いておる?」

「みっ?」

「キュウ、キュウ」

「ミ~ッ」


ユガフ様が怪訝な顔で問い、ルカも首を傾げる。

仔猫たちも幼いながらに何か感じて心配してくれたらしい。

ルナとルクスが俺の左右から俺の肩までよじ登ってくると、頬をペロッと舐めた。

ソルとステラは正面から登ってきて腕の中に収まり、俺の腕や胸の辺りをフンフンと嗅いでいる。


「デカい熊が小さな村を襲って、村人たちが食われたんだ」

「そうか……聖夜が奥義を使う神力を感じたのは、熊を倒したからじゃな?」

「うん」


俺はソファに腰を下ろして、昨夜の出来事を報告した。

ユガフ様は隣に座り、普段の呑気な表情をひそめて真剣な顔で聞いている。


「星の精霊は人食い熊を邪神デュマリフィの眷属だと言ってた」

「邪神デュマリフィの眷属か。あれからもう五百年近く経つんじゃのう」


話し込む俺とユガフ様を、ルカは黙って見つめている。

ルナとルクスが肩から降りてソルとステラに合流し、仔猫たちはまとまって俺に抱えられながら匂いを嗅いでいる。

多分、知らない人の匂いがするのかな?

仔猫たちの様子から何か察したルカが、音もなく駆け寄るとソファに飛び乗る。


「みみっ?」

「そんな、勢揃いで嗅がなくても……。村から救出した女性と赤ちゃんの匂いだよ」


ルカが問いかけるように鳴く。

ムスタの時以来の浮気チェックに、俺は苦笑しつつ説明してあげた。


「救出した母子はどうしたのじゃ?」

「南島でパイに保護してもらったよ。父親は不在だったから、村に帰ったら南島へ来るように置手紙してきたんだ」


説明しながら、俺はその父親と間違われたままだということを思い出す。

そうだ、先に誤解を解かないと。

それに食べ物を取りに行くって言ってきたから、届けてあげなきゃ。


「あ、ちょっと南島に行ってくる」

「ならば世界樹の実とレム鹿の実を持って行くがよい。産後の母親に食べさせるのじゃ」

「分かった」


俺は仔猫たちをソファに降ろすと、立ち上がって森の中へ空間移動した。

森に生えている蔦で籠を作り、世界樹の実を採って盛り付ける。

続いて、お馴染み「だるまさんがころんだ」作戦でレム鹿の実を採集。

籠に山盛りのフルーツを抱えて、俺は南島へ向かった。


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