「加勢してくれてありがとう。クルスには聞きたいことが色々あるけど、ギルドに報告を急いだ方がいいな」
コウモリ群が消え去り、いろいろ驚いた後、セーヤが言った。
セーヤはこのパーティのリーダーで、クエスト完了時の報告役でもある。
「僕は神殿へ報告に行くよ。邪神の眷属を発見したらすぐ報せろって言われてるから」
と言う白猫獣人はビアンコと名乗り、回復魔法や支援魔法は神殿で学んだと教えてくれた。
神殿では身体強化の重ね掛けなんて習わなかったそうで、俺がどこで学んだのかと聞かれたので、独学だと答えておいたよ。
身体強化の魔法はユガフ様の直伝だけど、創造主から魔法を習ったなんて言ったらまた驚きそうだし。
重ね掛け自体はなんとなくイメージしたらできたので、独学ってことでいいだろう。
「じゃあ、それぞれ行き先を思い浮かべて。異空間トンネルを開くよ」
「って、2つ同時?!」
俺はセーヤたちがイメージする移動先へ空間を押し出すように移動魔法を起動した。
異空間トンネルは難無く開通し、その入口となる丸い扉が現れた。
2つ現れた扉を見て、ハチワレ猫獣人のオットがツッコミを入れる。
オットは攻撃魔法に特化した魔導士で、空間系の魔法は適正がなくて習得できないらしい。
「空間移動の魔法って片手の動作で起動するだろ? 手は2本あるんだから2つくらい起動できるよねって思ったらできたよ」
「いや普通そんな簡単にできないし」
「俺はもうクルスに驚くのはやめておこうかな」
2つのトンネルを維持しながら涼しい顔で俺が言ったら、オットがまたツッコミを入れた。
その横で、大盾を持ったキジトラ猫獣人のファジアノが笑って言う。
「移動時間が短縮できて助かるよ。渡し賃はちょっと多めに払おう」
「助けてもらった分を上乗せしておくね」
「ありがとう。セーヤは報告が済んだら南島に運ぶよ」
「うん、頼む」
セーヤとビアンコはそれぞれ金貨を出してくる。
渡し屋の相場を知らないけど、かなり奮発してくれた気がするよ。
俺は初めてこの世界の貨幣を手にした。
「じゃあ、行ってくる」
「みんな、お疲れ様」
セーヤとビアンコはそれぞれ扉を開けて、異空間トンネルへと入っていく。
彼等が目的地に出た後、俺はトンネルを消去した。
冒険者ギルドと神殿の位置が脳内に記憶されたので、今後は誰かにイメージしてもらわなくてもトンネルを開くことができるだろう。
「オットとファジアノはどこへ行きたい?」
「道具屋の前に頼む」
「俺は防具屋の前に」
「OK」
続いて、オットとファジアノがイメージする行き先へトンネルを開く。
彼等も金貨をくれて、それぞれの扉を開けてトンネルに入っていった。
(臨時収入だな。街へも行けるようになったし、今度買い物してみよう)
俺は4枚の金貨をポケットに入れて、セーヤと合流するためギルドハウスに空間移動した。