邪神デュマリフィの眷属は、同種の生物間でウイルスのように増えていくという。
俺が倒したコウモリはいつから眷属化していたのか?
どういう経緯で眷属になったのか?
コウモリが多い洞窟の中、嫌な予感がする。
「セーヤ!」
「うわっ! なんだこいつら!」
「で、でけぇ!」
奥の方から、冒険者たちの叫び声がする。
セーヤに何かあった?!
何かに襲われてる?!
俺は急いで洞窟の奥へ走った。
嫌な予感は的中してしまった。
眷属コウモリは既に増殖していたようだ。
ボス部屋と思われる洞窟の奥の開けた場所に、苦戦する冒険者たちがいた。
キジトラ猫獣人が、大盾を構えてコウモリの攻撃を必死に防いでいる。
黒白ハチワレみたいに前髪に白メッシュが入った獣人は、コウモリめがけて石礫の魔法を放っている。
白猫獣人は支援と回復役らしく、盾役のキジトラ獣人に様々な魔法をかけていた。
その傍らには、両腕と両足に黒ずんだ裂傷を負ったセーヤが倒れている。
彼等を10匹ほどのコウモリたちが取り囲み、次々に飛びかかっていた。
その大きさは、さっき俺が倒したのと同じカラスサイズだ。
「くそっ、でかいくせに素早いな!」
「こいつら普通のコウモリじゃないぞ!」
「爪に気を付けろ!」
石礫は、コウモリたちにヒラリヒラリと躱されている。
彼等の苦戦ぶりから、俺はさっき倒したコウモリも普通の素早さではなかったのだと悟った。
眷属化したクマが大きさとパワーが上がったように、眷属化したコウモリは大きさとスピードが上がるのかもしれない。
「加勢するよ!」
「?!」
俺はまた攻撃速度上昇の重ね掛けをして、コウモリの群れの中に飛び込んだ。
3人が驚いて目を丸くした。
俺は両手の爪付きナックルを、コウモリたちに次々に叩き込む。
素早さに特化したコウモリたちは、防御力は無いに等しい。
コウモリたちは爪付きナックルの一撃で息絶えて、黒い血を吹き出して落下しながら蒸発するように消えた。
「……黒い血……?!」
「まさか、邪神の先触れか?!」
冒険者たちも邪神に関する知識はもっている。
コウモリの血を見て、その正体が何か理解したようだ。
「セーヤ、解毒遅れてゴメン、大丈夫?」
「まだ手足が痺れているけど、もう少しで動けると思う」
白猫獣人が解毒魔法を使い、セーヤは全身麻痺から回復し始める。
麻痺していただけで、命に別状は無いらしい。
一同がホッとした直後、洞窟の天井からキイキイという複数の声がする。
ギクッとして頭上を見上げた冒険者たちは、天井に蠢くものが視界に入ると青ざめた。
「……まだ……いるのか……」
盾を構えながら、キジトラ獣人が呟く。
広い天井を埋め尽くす数のコウモリがいる。
数の暴力とはこれを言うのだろうか?
トラウマになりそうな不気味な光景に、俺もゾワッとしてしまった。
巨大熊にはビビらなかったが、これはちょっと怖い。
眷属化はどこまで広がっているのか?
少なくともボス部屋の天井にいるコウモリたちは、みんな邪神の眷属になっているんだろう。
(放置して脱出したいが、そうすると更に増えるよな……)
俺は神様代理であって、勇者ではないんだが。
あの不気味な黒い大群を相手にしたくないけれど、放置して増えたら厄介だ。
「みんな、これ食べておいて。状態異常無効のバフがつくから」
「ってこれ、世界樹の葉?!」
「なんでこんなの持ってるの?!」
麻痺予防に世界樹の葉を全員に手渡したら、驚かれてしまった。
確か滅多に手に入らないレア品なんだっけ?
俺にとっては庭木の葉みたいに身近なアイテムだけど。
セーヤは葉を食べると完全に麻痺が解けて立ち上がった。
「あと、これも食べて。持続回復効果があるから」
「世界樹の実~?!」
「クルス何者なの?!」
ついでに世界樹の実も渡したら、みんなの驚き倍増してしまった。
まあこの後、更に驚かせてしまうのだけど。
「あとは攻撃激速度上昇の倍がけしておくよ」
「「「えっ?!」」」
「なにそれ? もっと詳しく!」
「あとで教えるよ~」
身体強化の倍がけって珍しいのだろうか?
3人が驚き、支援魔法が使える白猫獣人が興味津々で食いつく。
今は急ぎたいので、倍がけの話は白猫くんに後ほど話すことにした。
無属性魔法:攻撃速度上昇×3
「では、あれに奥義をブッ放すので、仕留め損ねた奴が落ちてきたらトドメ刺して」
「奥義?!」
説明しただけで驚いているけれど、俺は構わず奥義を発動した。
前回は防御力高い1体の敵に連撃したけれど、今回は無数にいるが防御は紙切れ同然な敵への範囲攻撃だ。
猫拳奥義:流星乱舞
天井めがけて、無数の光が尾を引いて飛ぶ。
慌てて天井から離れるコウモリたちを、光が追尾して撃墜する。
乱れ飛ぶ敵もしっかり捉えて撃ち抜く、数え切れぬ光の弾。
大量のコウモリが、空中で消滅した。
下に逃げてきたものは皆無で、攻撃速度を上昇してあげた冒険者たちは見学だけで終わってしまった。
「仕留め損ねた奴とか、いる?」
「いないね」
セーヤと白猫くんが、驚き過ぎて放心しながら呟いた。