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第66話:コウモリ

 異世界の洞窟の中。

 セーヤを見つけて南島行きに同意してもらった俺は、ここからどうやって南島まで行くかを簡単に説明した。

 この世界で俺が最初に覚えた移動魔法は、空間系魔法の適正がある者のみ使えるものらしい。

 俺は異世界転移チートで制限なく魔法が使えるけれど、この世界で生まれ育った者は適正という制限があるという。


「俺はクルス、空間移動の魔法が使えるから、南島への行き来は任せてくれ」


 俺はセーヤたちに苗字の「来栖」を名乗った。

 下の名前の「聖夜」は、セーヤと被るから言わないでおこう。


「渡し屋か? サヤはいくら払ったんだ? 後で彼女に返すから金額を教えてもらえるかい?」

「まだ料金は貰ってないよ」


 移動魔法の使い手は、運搬系の仕事をすることが多い。

 俺は渡し屋だと思われたので、そのまま渡し屋のふりをしておこう。

 セーヤは律儀な性格だった。

 俺がサヤから依頼料を貰ったと思ったようで、それを返すのだと言う。

 俺はそもそもサヤの依頼で来たわけじゃないから、金額なんて分からない。


「とりあえず、この先にいるボスの素材を手に入れたら依頼達成だから、少し待ってもらえると助かる」

「いいよ。用事を済ませてからの方が落ち着くだろうし」


 セーヤたち冒険者パーティは、ダンジョンボスから得られる素材の獲得を目標とするクエストを受けているらしい。

 俺はセーヤたちのクエストが終わるまでその場で待つことにした。


「俺はここで待ってるから、終わったら戻ってきてくれ」


 洞窟内の手頃な岩に腰かけて、俺はセーヤに言う。

 サヤは俺が仕事に行ったと思っているから、セーヤがクエストを済ませてからで問題無い。

 この世界の人々は、夜に仕事をして朝から昼まで眠る人が多い。

 真夜中の今は、基本的にみんな働いている時間帯だ。


「分かった。じゃあ、ちょっと狩ってくる」


 そう言うと、セーヤたち冒険者4人組は洞窟の奥へ進んで行った。


 ぽつんと1人残った俺は、初めて入った異世界の洞窟を興味津々で眺め回した。

 洞窟内は、ところどころに光る岩があり、それが照明代わりになっている。


(うちの照明器具に入ってる石みたいなものかな?)


 そんなことを思いつつ光る岩を見ていたら、コウモリがパタパタと飛んできた。

 さっきセーヤたちが袋に詰めていたやつよりデカイ。

 カラスくらいのサイズのコウモリだ。


「キシャーッ!」

「?!」


 コウモリは俺に気付いた途端、牙を剥いて襲い掛かってくる。

 俺はギョッとしつつも、戦闘態勢に入った。


(こいつ、熊より厄介かも!)


 コウモリは回避が凄かった。

 飛びかかってきたのを躱して爪つきナックルで切り裂こうとしても、ヒラリと避けてしまう。

 逆に、俺が躱し切れなくてコウモリの爪で引っ掻かれたりする。

 引っ掻き傷が黒くなり、痛みよりも痺れを感じた。


(毒か……?!)


 ヤバイと思った俺は、異空間倉庫から世界樹の葉を1枚取り出して口に放り込み、急いで咀嚼して飲み込む。

 状態異常が全て解除され、傷口の黒ずみは消え、痺れも無くなった。

 もともと傷の治りは早いので、すぐに跡形もなく癒えていく。


(セーヤたち、よくこんなすばしっこいヤツ狩れるなぁ)


 攻撃をヒラリヒラリと躱すコウモリにイラッとしつつ俺は思う。

 セーヤたちがコウモリを狩るところを見ておけばよかった。

 とりあえず、身体強化で自分の速度を上げるしかなさそうだ。


 無属性魔法:攻撃速度上昇


「キイッ!」

「お前! これでも避けるのかよ」


 攻撃速度を倍にしたのに、コウモリはヒラリと避けて馬鹿にしたように鳴く。

 コウモリは避けるついでに俺の腕を引っ掻いたが、今度は傷口が黒くなったり痺れたりはししなかった。

 俺の傷は秒で癒えていく。


「キイッ?」

「ふふん、お前の毒はもう効かないぜ」

「キーッ!」


 なんかコウモリが悔しがってる気がする。

 世界樹の葉は状態異常解除効果の他に、24時間状態異常無効のバフもつくんだ。


(神の島のチート植物舐めんなよ)


 そう思いつつ不敵な笑みを浮かべてみたものの、俺の攻撃も当たらないのでは永遠に決着がつかない。

 身体強化って複数かけられるよな?

 同じ種類を重ね掛けってアリか?


 無属性魔法:攻撃速度上昇×2



 やってみたら、同種の身体強化も重ねがけ可能だった。

 攻撃速度は既に2倍速になっているので、重ね掛けで4倍速に跳ね上がる。

 そこまでやって、ようやくコウモリが避けられない速度となった。

 コウモリの攻撃を回避するついでに、俺は片手を突き出す。

 柔らかい物に、プスリと刺さる手応えを感じた。


「キ……?」

「はい終了」


 呆然とするコウモリの胸辺りを、爪つきナックルが貫通する。

 それを引き抜くと、落下するコウモリから黒い血が噴き出した。


(これも邪神デュマリフィの眷属か?)


 動かなくなったコウモリを眺めて、俺は心の中で呟く。

 コウモリと黒い血は、蒸発するように消えていった。



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