セーヤが入っていった洞窟の前に来たものの、俺はどうやって話しかけるか考えてなかったことに気付いた。
まず、今の容姿はやめた方がよさそうだ。
いきなり自分と瓜二つの者に話しかけられたら、めちゃくちゃ警戒するよね?
関わるのを避けようとするかもしれない。
とりあえず、俺は別の獣人の姿に変身した。
セーヤは銀灰色の瞳と髪と猫耳と尻尾だから、俺はそれらを黒に変える。
というか、銀猫ベースの獣人から、黒猫ベースの獣人に変わっただけともいう。
これで俺はセーヤに瓜二つから、顔立ちが似ている程度に変わった。
『イリの神様、この世界に黒い瞳はいませんよ』
『えっ、そうなの?』
『黒猫なら、金か緑が標準です』
ここへ案内してくれた星の精霊が念話で話しかけてくる。
そういえば、猫の瞳に黒は無いな。
この世界の住民は猫ベースで創造された知的生命体だから、瞳の色も猫と同じレパートリーなんだろう。
『これでいいかな?』
『はい、それなら普通の色です』
俺は瞳の色を黒から金に変えた。
緑にしなかったのは、ニシの神と被るから。
耳や尻尾も短毛猫ではなく、長毛猫のフサフサにしておく。
金目の黒猫獣人になった俺は、セーヤを追って洞窟の中に入った。
◇◆◇◆◇
「セーヤ! そこにいる銀髪の人、セーヤだろ?」
「え?」
洞窟は1本道だった。
しばらく走ると、前方に倒したコウモリを布袋に詰めている4人組が見えてくる。
呼びかけると、銀灰色の髪の青年がキョトンとして振り向いた。
「君を探しに来たんだ。薬師のサヤさんに会ってもらえないか?」
「サヤ? まだ依頼はきてないけど?」
セーヤはサヤの村の惨劇を知らなかった。
森に囲まれた小さな村が滅びたことを、冒険者ギルドが把握できていないんだろう。
「サヤさんがいた村は、巨大熊に襲われて壊滅したんだよ」
「「「えぇっ?!」」」
「サヤは?! 無事なのか?!」
俺の言葉に、他の冒険者たちも驚く。
セーヤは途端に焦り始めた。
「サヤさんは生きてるよ。でも村はもう人が住める状態ではなくなってしまったから、アケト・マヌの南島で保護されている」
「南島? あそこは妊娠中の人しか……」
「「「……」」」
セーヤは言いかけて、何か察したように口ごもる。
他の3人が、セーヤをじーっと見つめた。
パイの神が誕生を司る神であることは、誰もが知っている。
南島には、妊婦とその家族しか立ち入れない筈だった。
俺は自由に出入りしているけれど、それはイリの神という立場に加えて、サヤの夫代わりになっているからだ。
「状況は分かってもらえたかな? サヤさんは君に会いたがっているから、南島に来てくれるかい?」
「……分かった。行くよ」
セーヤは覚悟(観念?)したように了承してくれた。