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第65話:速報


 セーヤが入っていった洞窟の前に来たものの、俺はどうやって話しかけるか考えてなかったことに気付いた。

 まず、今の容姿はやめた方がよさそうだ。

 いきなり自分と瓜二つの者に話しかけられたら、めちゃくちゃ警戒するよね?

 関わるのを避けようとするかもしれない。


 とりあえず、俺は別の獣人の姿に変身した。

 セーヤは銀灰色の瞳と髪と猫耳と尻尾だから、俺はそれらを黒に変える。

 というか、銀猫ベースの獣人から、黒猫ベースの獣人に変わっただけともいう。

 これで俺はセーヤに瓜二つから、顔立ちが似ている程度に変わった。


『イリの神様、この世界に黒い瞳はいませんよ』

『えっ、そうなの?』

『黒猫なら、金か緑が標準です』


 ここへ案内してくれた星の精霊が念話で話しかけてくる。

 そういえば、猫の瞳に黒は無いな。

 この世界の住民は猫ベースで創造された知的生命体だから、瞳の色も猫と同じレパートリーなんだろう。


『これでいいかな?』

『はい、それなら普通の色です』


 俺は瞳の色を黒から金に変えた。

 緑にしなかったのは、ニシの神と被るから。

 耳や尻尾も短毛猫ではなく、長毛猫のフサフサにしておく。

 金目の黒猫獣人になった俺は、セーヤを追って洞窟の中に入った。



 ◇◆◇◆◇



「セーヤ! そこにいる銀髪の人、セーヤだろ?」

「え?」


 洞窟は1本道だった。

 しばらく走ると、前方に倒したコウモリを布袋に詰めている4人組が見えてくる。

 呼びかけると、銀灰色の髪の青年がキョトンとして振り向いた。


「君を探しに来たんだ。薬師のサヤさんに会ってもらえないか?」

「サヤ? まだ依頼はきてないけど?」


 セーヤはサヤの村の惨劇を知らなかった。

 森に囲まれた小さな村が滅びたことを、冒険者ギルドが把握できていないんだろう。


「サヤさんがいた村は、巨大熊に襲われて壊滅したんだよ」

「「「えぇっ?!」」」

「サヤは?! 無事なのか?!」


 俺の言葉に、他の冒険者たちも驚く。

 セーヤは途端に焦り始めた。


「サヤさんは生きてるよ。でも村はもう人が住める状態ではなくなってしまったから、アケト・マヌの南島で保護されている」

「南島? あそこは妊娠中の人しか……」

「「「……」」」


 セーヤは言いかけて、何か察したように口ごもる。

 他の3人が、セーヤをじーっと見つめた。

 パイの神が誕生を司る神であることは、誰もが知っている。

 南島には、妊婦とその家族しか立ち入れない筈だった。

 俺は自由に出入りしているけれど、それはイリの神という立場に加えて、サヤの夫代わりになっているからだ。


「状況は分かってもらえたかな? サヤさんは君に会いたがっているから、南島に来てくれるかい?」

「……分かった。行くよ」


 セーヤは覚悟(観念?)したように了承してくれた。

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