「おかえり。予定より早かったねぇ」
「「?!」」
南島に出ると、いきなりパイの神が目の前に現れた。
祠から離れた森の中に出たのに、まさかパイが来るとは。
心の準備ができてないセーヤも俺も、尻尾の毛がブワッと膨らむくらい驚いた。
「なんだい、2人揃ってそんなに驚いて」
「い、いや、目の前にいきなり現れたら普通驚くだろ」
涼しい顔でパイが言うので、俺はツッコミを入れた。
セーヤは驚き過ぎて声も出ないのか、尻尾を膨らませたまま固まっている。
「異空間が開く気配がしたし、用があったから来たのさ。サヤの心は今、不安定な状態だからねぇ。先にあんたたちと会って話しておきたいんだよ」
「そっか。そうだよね。村の仲間たちを亡くしてから、まだ3日目だし」
ライオンサイズの白猫女神は、話しながら片手(前足)でスイッと空中を撫でるような動作をした。
途端に、俺もセーヤも異空間に包まれる。
空間移動のトンネルではなく、バリアのようなドーム状の空間だ。
時間の流れを変えたらしい。
サヤが祠からこの森まで来ることはないだろうけれど、万が一を考えたのかもしれない。
「まず確認するよ。あんたたち、サヤにどう説明する気だい?」
「えっと、俺は実は他人の空似で、こっちが本物のセーヤですって……」
「そんな馬鹿正直に言ってどうすんだいっ!」
訊かれて答えた俺は、パイにバシッと頭を叩かれた。
この女神、すぐ手が出るんだよなぁ。
セーヤがビックリして、萎みかけた尻尾の毛をまた膨らませているよ。
「心の支えになっていた恋人が実は偽物だったなんて知ったら、あの子はどうなると思う?」
「え~と……騙した俺を憎む?」
「普通ならそうだろうねぇ。でも、今のあの子の精神状態では、他人を恋人と間違えた自分を責めちまうのさ」
パイに言われて、サヤのメンタルについて俺は分かっているようで分かってなかったことに気付いた。
俺が嫌われるくらいならまだいい。
サヤの怒りの矛先が自らの心に向かってしまうのはよくない。
「……じゃあ、どうすればいいんですか?」
俺に代わって、セーヤが問いかける。
今後のサヤを支えられるのは彼だけだから、責任重大だ。
「村が壊滅してサヤがここへ来た経緯や出産のことは聞いたんだろう? サヤは村の話題には触れようとしないし、子供とあんたのことだけを考えているから、偽物のことは言わずに入れ替わって我が子の名前でも考えておきな」
「わ、分かりました」
「じゃあ、異空間バリアを解除するから、すぐサヤのところへ行きな。『ただいま』って言って抱き締めてあげればいいんだよ」
「はい」
パイの指示により、セーヤはサヤがここに来たときから一緒にいたフリをすることになった。
偽物だとバラす必要が無くなった俺は、1人で祠へ向かうセーヤを見送る。
「さて、じゃあ俺は家に帰って寝るよ」
「そうしな。邪神の眷属が湧き始めたのなら、今夜あたり西島が賑やかになるだろうからねぇ」
欠伸をしつつ自宅への異空間トンネルを開く俺に、パイが言う。
冒険者たちが西島に来ることは、邪神襲来時の恒例行事なんだろうか?