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第69話:冒険者ギルド

「お、来た来た。クルス、中に入ってきて」


 セーヤを迎えに行くため、異空間トンネルをギルドハウスの前に繋げて移動してみると、セーヤが建物の窓から顔を出して手招きする。

 なんだろう? と思いつつ、俺はギルドハウスの中に入った。

 ログハウスみたいな建物の中は案外広くて、30~40人くらい余裕で入れそう。

 壁は掲示板代わりになっていて、様々な依頼内容を書いた紙が貼られている。

 奥にはカフェのカウンター席みたいな長机があって、5人の受付嬢たちが冒険者たちと依頼の手続き作業をしていた。


「こっちこっち」


 って言いながら、セーヤは受付カウンター横の扉を開けてまた手招きする。

 入ってみるとそこは応接室で、ソファにはプロレスラーみたいに筋肉ムキムキのオッサンが座っていた。

 こげ茶の猫耳と尻尾、髪はクリーム色、目はターコイズブルー。

 シャム猫系の獣人かな?

 しかしガチムチ過ぎてシャム猫のスレンダーなイメージは全く無かった。


「はじめまして。私はサイアミ、このギルドハウスの支部長をしている」

「はじめまして。クルスといいます。かけだしの渡し屋です」


 ガチムチシャム猫獣人のオッサンは、サイアミという名前らしい。

 俺はここでも苗字の「来栖」を名乗り、始めたばかりの渡し屋だと告げた。

 実際は現実世界での仕事はドラッグストア勤務の派遣バイト、この世界での仕事は神様代理だけど。

 そんなこと言ったら頭おかしい奴と思われそうな気がして、無難に渡し屋で通すことにした。


「早速だが本題に入ろう。渡し屋の仕事があるんだが、引き受けてくれないかい?」

「今は別の依頼を受けているので、それが終わってからならいいですよ」


 俺とセーヤが向かいのソファに座ると、サイアミはすぐ依頼の話を始める。

 応接室に通されたのは、仕事を頼む為だったのか。

 この世界の通貨が欲しい俺は、先約を済ませてからという条件で承諾した。


「それで構わない。先の依頼が完了したら、またこちらへ来てほしい」

「分かりました。ちなみに、依頼内容を聞いてもいいですか?」

「勿論。渡してもらいたいのはこのギルドに所属するBランク以上の冒険者たち、行き先は神々の諸島アケト・マヌの西島、イリの神様のところだ」

「?!」


 サイアミから聞いた依頼内容に、俺は一瞬固まった。

 イリの神に何の用?

 っていうか、代理でよければ、今ここにいるけど!


「人数にして30名ほどになる。一度に渡すのが無理なら、可能な人数ずつに分けてくれてもいい」

「いえ、分けなくても大丈夫です」


 サイアミは俺が驚いたのは人数の多さかと思ったらしい。

 俺が作り出す異空間トンネルは、制限時間や定員などは無い。

 それよりも、西島まで行く冒険者たちが何を望むのかが気になるところだ。


「イリの神様に何の用か、聞いてもいいですか?」

「邪神の眷属に対抗できる力を授かるためだよ」


 俺の問いに答えたのはサイアミではなく、隣に座っていたセーヤだった。

 サイアミはセーヤに話を任せて、静かに頷いている。


 眷属化したコウモリたちの速度に、セーヤとパーティメンバーはついていけなかった。

 イリの神に求めるものは、神力による身体能力の永続的な上昇か?

 西島まで行かなくてもここでやってあげるよなんて言えないから、俺は黙って話を聞いている。


「でもその前に、サヤと我が子に会わなきゃね。クルス、俺を2人のところへ運んでくれ」

「OK」


 俺は異空間トンネルを南島に繋げた。

 そろそろ夜明けの時間で、予定よりも少し早いけれど。

 サイアミに「では先の依頼を済ませてきます」と告げて、俺はセーヤを連れて異空間トンネルに入った。



「サヤに会う前に、知っておいてほしいことがある」


 大きな土管のようなトンネルの中、俺はセーヤにサヤの状況を説明した。

 邪神の眷属に村を滅ぼされて、親しい人々がみんな殺されたこと。

 1人生き残ったことに罪悪感のような気持ちを抱いていること。

 そして、俺をセーヤと間違えていることも。

 俺は猫耳・尻尾・髪の色を黒から銀灰色に、瞳の色を金色から銀灰色に戻した。


「え?!」

「魔法で色を変えただけだ。似てるだろ? この姿を見たサヤにセーヤと間違われて、今に至るんだ」


 俺は話せることは全部セーヤに話した。

 さすがに「実はこれも仮の姿で正体は異世界人です」とは言えないけど。


「じゃあ、俺を迎えにきたのは……」

「サヤに早く本物を引き合わせたいと思った俺の意思だよ。だからサヤから依頼料は貰ってないし、セーヤからとる気も無い」


 セーヤは驚いてはいたが、状況を理解してくれた。

 ここから先は、セーヤが頼りだ。

 サヤは本物との再会で、今までのセーヤが偽物だと気付くだろう。

 騙されたことにショックを受けたりしないか、俺はそれが心配だった。


「サヤに会ったら、まず俺が偽物だと白状するよ。その後、セーヤがサヤを慰めてもらえるか?」

「いいよ」


 状況を理解したセーヤは落ち着きを取り戻して頷く。

 偽物の俺はサヤに嫌われるだろうけど、それは構わない。

 サヤの心が壊れたりしないように、セーヤにはしっかり支えてもらいたい。


「じゃあ、行こうか」


 俺は異空間トンネルの先、南島への扉を開けた。




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