「ただいま~……って、ソル、なんで【やんのかポーズ】してんの?」
「シャーッ!」
「へ?! ルナ、なんで威嚇するの?」
「ウ~ッ!」
「ステラまで……なんで唸るの?」
「……」
「ルクス、無言で目ぇ逸らして逃げるのやめて。なんか傷つくから」
自宅に帰った俺は、仔猫たちに思いっきり警戒された。
ソルは俺を見た途端に背中を丸めて毛を逆立てるし、ルナはみんなの後方でシャーとか言うし、ステラはウーウー言うし、ルクスに至っては見なかったことにして逃げてしまうし。
彼等の反応は、まるで避妊手術を終えて病院から帰ったルカを見たときのようだ。
警戒の際の行動がそれぞれ個性があって興味深い。
……って、それはおいといて。
なんで警戒されるの?
病院なんて、行ってないよ?
消毒薬の匂いとか、しない筈だけど?
「おかえり聖夜。どうしたんじゃ?」
「なんか、みんなに警戒されるんだけど」
「なんじゃ、気付いておらんのか?」
俺が首を傾げていると、ソファの上でお腹を出して悠々と寝そべる巨大フサフサ茶トラ猫=ユガフ様が話しかけてきた。
ユガフ様は大きな欠伸をした後、寝そべっていたソファから降りて歩み寄ってくる。
四足歩行で俺の前まで来ると、ユガフさまは後肢だけで身体を支えるように立ち、モフモフの両手(前足)を伸ばして俺の頭上にある物を掴んだ。
「これのせいじゃな」
耳を掴まれたような感覚。
俺はそこで気付いた。
そういや、まだ変身したままだったよ。
この姿のときは、耳は顔の両脇ではなく、頭上にある。
今の俺は飾り毛つきの猫耳とフサフサの尻尾をもつ銀猫獣人だ。
「チビどもは、そなたの見慣れぬ姿を警戒しておるんじゃよ」
「変身を解くの忘れてた……」
「うっかりさんじゃのう」
納得。
移動先が自宅で良かった。
もしも職場にこんな姿で行ったら、大騒ぎになったかもしれない。
猫好きスタッフたちにはウケるかもしれないけど。
俺、多分コスプレオタク認定されちゃうよ。
イベント会場以外でコスプレするガチ勢だと思われるかも。
下手したら店長に「そのまま店頭に立って客寄せしてくれる?」とか言われたかも。
子供たちに群がられて、尻尾を引っ張られたりするかも。
中には「変な人がいるぅ~」とか言って指差す子もいるかも……
色々想像してちょっと青ざめる俺を見て、ユガフ様が目を細めて苦笑した。
そんな俺をガン見しながら、仔猫たちは無言で【やんのかポーズ】している。
「ごめんごめん。ほら、俺だよ」
苦笑しつつ、俺は変身を解いた。
知らない生き物(?)から知ってる人間(飼い主)に変わる過程を見て、仔猫たちが尻尾を膨らませる。
その後、いつもの俺の姿を見て、仔猫たちはようやくやんのかポーズを解除した。
彼等が恐る恐る俺に近付いてくるのは、怒られるとでも思っているのだろうか?
「匂いで俺って分からないのかなぁ」
「猫は犬ほどは嗅覚に頼っておらぬのじゃよ」
近付いてきた仔猫たちにいつものようによじ登られながら、俺は無の表情で呟く。
俺から離れて再びソファに寝転がりながら、ユガフ様が言った。
「みっ、みみっ」
「ルカお前、隠れて見てたな?」
まるで今俺の帰りに気付いたみたいに、ルカがすり寄ってくる。
さっきまで影も形も無かったぞ。
スリゴロのルカが隠れるなんて、俺はよほど怪しい人に見えたんだろうか?