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第71話:猫は見た目で判断する


「ただいま~……って、ソル、なんで【やんのかポーズ】してんの?」

「シャーッ!」

「へ?! ルナ、なんで威嚇するの?」

「ウ~ッ!」

「ステラまで……なんで唸るの?」

「……」

「ルクス、無言で目ぇ逸らして逃げるのやめて。なんか傷つくから」


 自宅に帰った俺は、仔猫たちに思いっきり警戒された。

 ソルは俺を見た途端に背中を丸めて毛を逆立てるし、ルナはみんなの後方でシャーとか言うし、ステラはウーウー言うし、ルクスに至っては見なかったことにして逃げてしまうし。

 彼等の反応は、まるで避妊手術を終えて病院から帰ったルカを見たときのようだ。

 警戒の際の行動がそれぞれ個性があって興味深い。


 ……って、それはおいといて。


 なんで警戒されるの?

 病院なんて、行ってないよ?

 消毒薬の匂いとか、しない筈だけど?


「おかえり聖夜。どうしたんじゃ?」

「なんか、みんなに警戒されるんだけど」

「なんじゃ、気付いておらんのか?」


 俺が首を傾げていると、ソファの上でお腹を出して悠々と寝そべる巨大フサフサ茶トラ猫=ユガフ様が話しかけてきた。

 ユガフ様は大きな欠伸をした後、寝そべっていたソファから降りて歩み寄ってくる。

 四足歩行で俺の前まで来ると、ユガフさまは後肢だけで身体を支えるように立ち、モフモフの両手(前足)を伸ばして俺の頭上にある物を掴んだ。


「これのせいじゃな」


 耳を掴まれたような感覚。

 俺はそこで気付いた。

 そういや、まだ変身したままだったよ。

 この姿のときは、耳は顔の両脇ではなく、頭上にある。

 今の俺は飾り毛つきの猫耳とフサフサの尻尾をもつ銀猫獣人だ。


「チビどもは、そなたの見慣れぬ姿を警戒しておるんじゃよ」

「変身を解くの忘れてた……」

「うっかりさんじゃのう」


 納得。

 移動先が自宅で良かった。

 もしも職場にこんな姿で行ったら、大騒ぎになったかもしれない。

 猫好きスタッフたちにはウケるかもしれないけど。

 俺、多分コスプレオタク認定されちゃうよ。

 イベント会場以外でコスプレするガチ勢だと思われるかも。

 下手したら店長に「そのまま店頭に立って客寄せしてくれる?」とか言われたかも。

 子供たちに群がられて、尻尾を引っ張られたりするかも。

 中には「変な人がいるぅ~」とか言って指差す子もいるかも……

 色々想像してちょっと青ざめる俺を見て、ユガフ様が目を細めて苦笑した。

 そんな俺をガン見しながら、仔猫たちは無言で【やんのかポーズ】している。


「ごめんごめん。ほら、俺だよ」


 苦笑しつつ、俺は変身を解いた。

 知らない生き物(?)から知ってる人間(飼い主)に変わる過程を見て、仔猫たちが尻尾を膨らませる。

 その後、いつもの俺の姿を見て、仔猫たちはようやくやんのかポーズを解除した。

 彼等が恐る恐る俺に近付いてくるのは、怒られるとでも思っているのだろうか?


「匂いで俺って分からないのかなぁ」

「猫は犬ほどは嗅覚に頼っておらぬのじゃよ」


 近付いてきた仔猫たちにいつものようによじ登られながら、俺は無の表情で呟く。

 俺から離れて再びソファに寝転がりながら、ユガフ様が言った。


「みっ、みみっ」

「ルカお前、隠れて見てたな?」


 まるで今俺の帰りに気付いたみたいに、ルカがすり寄ってくる。

 さっきまで影も形も無かったぞ。

 スリゴロのルカが隠れるなんて、俺はよほど怪しい人に見えたんだろうか?

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