朝から昼まで自宅の寝室で睡眠をとった後。
俺はユガフ様にコウモリの群れが邪神の眷属と化していたことを報告した。
「それだけの数が眷属化しておったのなら、そろそろかもしれんのぅ」
大きな両耳を真横に伏せて、ユガフ様は溜息をつく。
この世界を創ったユガフ様にとって、世界の外側からやってきて生き物を異質なものに変えたり、村を壊滅させる原因となる邪神は厄介な相手なんだろう。
「イリの神として、そなたは忙しくなりそうじゃの」
「そういえば、冒険者ギルドの支部長に西島まで冒険者を運んでくれって依頼されたよ」
「なんと、一人二役ではないか」
「いっそ運ばないで俺がギルドハウスに行って加護を与える……わけにはいかないよねぇ」
「西島の方が代々のイリの力に満ちておる故、強固な加護がつけられるじゃろうな」
「じゃあ、運ぶしかないね」
俺は【渡し屋のクルス】と【冒険者たちに加護を与えるイリの神】、一人二役を上手くこなせる方法を考えた。
①ギルドハウスから西島への異空間トンネルを、島の砂浜に開く。
②冒険者たちがゾロゾロとトンネルを通って西島の砂浜に出る。
③最後の1人がトンネルに入ったら入口を閉じる。
④自分は別のトンネルを通り、西島の祠の中に空間移動する。
⑤イリの神に変身して、冒険者たちを迎える。
……こんな感じでいいかな?
昼間の西島。
俺は冒険者たちを移動させる砂浜を点検に行った。
白砂の浜に囲まれたハート型の島。
俺は砂浜から祠まで実際に歩いてみて、冒険者たちがどのくらいで祠の前まで来るかを確認した。
ハート型の先端から祠までは、徒歩数分だ。
これなら最後尾の冒険者がトンネルに入った後、すぐ祠に行けば普通に間に合うだろう。
「イリ、昼間から何してるの?」
「おわっ?!」
祠から出た直後、いきなり誰かの声がした。
変な声が出るほど驚いた俺が辺りを見回すと、金色のフサフサ大猫がいるのが見えた。
「……なんだアガか……。あ~ビックリした」
「相変わらず神気の感知が下手ね」
クスクス笑うのは、
金色の長毛猫で、瞳は朝焼けの太陽の赤金色だ。
日本なら太陽神といえば神々の代表格みたいになっているけれど、この世界では「心地よい睡眠をもたらす神」らしい。
「で、まだ夜まで時間があるのに、何してるの?」
「今夜は冒険者がいっぱい来るからね。心の準備だよ」
ライオンサイズの身体でオスワリして首を傾げるアガが訊く。
キョトンとする顔が少しあどけなく見えて愛らしい。
同じ女神でも気の強いパイとは違い、アガはノンビリおっとりした性格だ。
「普通に待っていればいいんじゃないの?」
「それがさ、俺は冒険者たちを運ぶ【渡し屋】もやるんだよ」
俺はアガに今夜の予定を全部話した。
アケト・マヌの神々は俺が異世界人であることも、代理でイリの神になっていることも知っている。
「それは忙しいね~、砂浜で私からも加護を与えて時間を稼いであげようか?」
「お、それいいね。助かるよ」
アガが協力してくれるのはありがたい。
俺たちは簡単に打ち合わせをして、夜になるのを待った。