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第73話:冒険者たちの参拝


 星々が瞬く夜。

 神々の諸島から遥か東方にある国エスト。

 ギルドハウス内には、30人ほどの冒険者たちが集まっていた。

 彼等はS級~B級までのランク評価をもつ者たちで、災害級の魔物の討伐にも対応できるらしい。

 C級以下の冒険者は外に出ているよう言われていて、興味津々で窓から室内を覗いていた。


「S級パーティ【六芒星エキサグラム】から西島へ向かってもらいます。次にA級パーティ【夜想曲ノクターン】、【流星メテオール】。B級パーティは【疾風ラファール】、【月光クレアドルーン】、【星の夜ニュイエトワレ】の順に入って下さい」


 受付嬢たちが説明を終えたタイミングで、俺は西島に繋がる異空間トンネルを開く。

 トンネルの先は西島の砂浜で、待機しているアガが加護を与えてから祠へ向かわせることになっている。

 東島にいる筈の太陽神が夜の西島にいるから、冒険者たちは驚いていた。


 セーヤたちは一番最後にトンネルに入った。

 俺の前を通るセーヤがチラッとこちらを見て、口角を上げて微笑む。

 きっと、サヤに入れ替わりを気付かれずに済んだんだろう。

 彼等がトンネルに入った後、俺はすぐに入口を閉じて単独で西島の祠の中へ空間移動した。



 ◇◆◇◆◇



 誰もいない祠の中。

 俺は変身魔法でライオンサイズのフサフサ銀猫に姿を変えた。


 人々が祠に近付いてくる気配を感じる。

 ちょうどいいタイミングだ。

 俺は時間稼ぎをしてくれたアガに感謝しつつ、四足歩行でゆっくりと祠の外へ歩み出た。


「イリの神様に御挨拶申し上げます」


 列を作る人々の先頭に立つ獣人が、恭しく一礼する。

 それに倣い、後ろに並ぶ獣人たちも一礼した。


「用件は分かっている。邪神デュマリフィに対抗する力が欲しいんだね?」

「はい」


 イリの神が冒険者たちの用件を知っていても、誰も驚かない。

 星の精霊たちから聞いたと思っているのだろう。


「イリの神様、どうか私たちに【破邪の力】をお与え下さい」

「承知した」


 満天の星が輝く下で、俺は西島に漂う神力を集める。

 体内に力が満ちて、滲み出る神力によって俺の身体が銀色の燐光に包まれた。


「星の精霊たちよ、お前たちも力を貸しなさい」

「畏まりました」

「イリの神様の御心のままに」

「邪なる神とその眷属を退ける力となりましょう」


 夜空から、キラキラと銀の粒子が降り注ぐ。

 俺の身体から放たれる無数の光の粒は、空中をフワフワと漂って人々のもとに向かう。

 星の精霊たちが注いだ光は人々の頭に吸い込まれ、俺が放った光は人々の胸に吸い込まれた。

 ほんの2~3秒ほど銀の燐光に包まれた後、冒険者たちは自らの中に強い力が宿ったのを感じたのか、それぞれ両手をじっと見つめる。


「破邪の力は宿ったが、無茶はしないように。もしも何か困ったことがあれば、星に願いなさい」

「ありがとうございます! 承知致しました!」


 俺の言葉に、人々の先頭に立つ者が代表して答える。

 続いて、冒険者一同が一斉に頭を下げた。


 その後、人々は来た道を戻り、異空間トンネルに入っていく。

 俺は祠の中へ戻ったと見せかけて、銀猫から黒猫獣人に姿を変えてギルドハウスに空間移動した。



 ◇◆◇◆◇



 ギルドハウスの中。

 閉めていた扉を開けると、人々がゾロゾロと出てくる。

 出てきたセーヤに、俺は声をかけた。


「お帰り。用事は問題無く済んだかい?」

「ああ、ありがとう」


 一部始終を見ていたけれど、俺はその場にいなかったふりをして聞いてみる。

 セーヤは微笑んで答えた。

 他の人々も「ありがとな」と軽く声をかけた後、ギルドハウスから出ていく。


「クルスさん、こちらは今回の報酬です。金貨30枚、お受け取り下さい」

「まいどあり。時々ここに顔を出すようにするから、また渡し屋の仕事があればよろしく」

「はい。今後もよろしくお願いします」


 受付嬢からは金貨が入った布袋を貰った。

 この世界の金貨1枚は、日本円で1万円くらい。

 30枚ってことは、30万円くらいの収入だ。

 渡し屋の日給、派遣バイトの月給よりいいぞ。


「この後はどうする? サヤのところへ帰るなら送るよ?」

「うん。頼む」


 西島行きの一団が解散した後、俺はまたセーヤに声をかけた。

 セーヤは今夜はダンジョンには行かず、サヤのところへ帰るという。

 彼が早く帰ればサヤも喜ぶだろう。

 俺はセーヤを連れて南島に空間移動した。

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