「とうとうやりおったか」
異世界の自宅。
現実世界から帰った俺の話を聞いて、巨大フサフサ茶トラ猫がソファの上で腹を抱えて笑い出す。
その尻尾でじゃれていた仔猫たちが、キョトンとして俺を見上げた。
「みっ、みみっ、みっ」
「ゴメンゴメン、せっかく注意してくれたのにね」
ルカからは「だから気を付けてねって注意してあげたのに」って言われた気がする。
最近はユガフ様の通訳が無くても、ルカが言ってることが分かるようになってきた。
「もはや普通に意思疎通ができておるのう」
「うん」
俺とルカのやりとりを見ていたユガフ様が、微笑ましそうに目を細めて言う。
家族だから、意思疎通くらいできなきゃね。
俺はルカと会話が成立していることに、もはや何も疑問には思わなくなっていた。
「しかし子供らに大人気とは想定外じゃの」
「なんかこういうアニメキャラがいるらしくて、それのコスプレだと思われちゃったよ」
「あちらの世界は、どんな姿をしておってもコスプレで片付くからのぅ」
溜息をついてソファに座る俺に、笑いながらユガフ様が言う。
今の時代、変わった姿をしていても大体コスプレで済まされる。
俺がフサフサ尻尾と猫耳つけて出勤しても、それらが自在に動いても、金色の瞳で猫のように縦長になる虹彩があっても、人間ならある筈の位置に耳が無くても、ただのコスプレだと思われていた。
「店長なんて、土日はその姿で出勤して風船配れとか言うし……」
「着ぐるみよりも子供ウケが良かったのなら、そうなるじゃろうな」
うっかり変身したまま出勤したせいで、コスプレミッションが与えられるとは。……コスプレじゃないけど。
まあでも普通に(?)受け入れられて良かったというべきか?
「そなたはこちら側にいることが多いのじゃし、獣人姿でいることが増えておろう? またウッカリやらかして焦るよりは、その姿を見慣れさせておく方が都合が良いのではないか?」
「そうだね……」
変身そのものには特に何も支障はない。
敢えて言うなら、自宅にいるときに仔猫たちが尻尾をカミカミケリケリするので、少し痛い程度かな?
敏捷性や反射神経などの運動能力は元の姿でいるときよりも高くなるので、森での狩りには便利だ。
しかし、そっちに慣れ過ぎると、元の姿での動きが鈍るから、ほどほどに変身は解いた方がいいかもね。
神様代理になったり、渡し屋になったり、商人ギルドや辺境伯との繫がりができたり、俺の異世界ライフには現地人との交流が増えている。
獣人姿でいる時間が圧倒的に長いので、元の身体の感覚を忘れないように、俺は朝練では変身を解くことにした。
そうすることで、一般的な獣人よりも高い身体能力を得ることを、このときの俺はまだ気付かなかった。