流れていく膨大な弾幕を見つめながら、私は無意識に眉をひそめていた。
瞬きすることすら忘れていた。
彼らが言う「悪役さん」とは、おそらく、あの――神谷慎一。
世界の秩序を揺るがす存在であり、システムが繰り返し警戒する“彼”。
そして、失敗に終わった数多の攻略者たち。
それこそが、私に向けられた忠告の意味だったのだろう。
システムは、これまでにありとあらゆる手段を尽くしたはずだ。
それでもなぜ、こんな平凡な私に最後の希望を託したのか――
そう思ったその瞬間、弾幕の話題が明確に“私”へと向けられた。
【でもさ、正直言って、この十年で悪役さんを繋ぎ止めてきたのは攻略者でも替え玉でもない】
【彼の亡き妻が残した、たった一人の息子だろ】
【亡き妻はすべてを残して消えたけど、息子だけは彼のそばに残った】
【それが今、悪役さんとこの世界を繋ぐ唯一の絆なんだ】
【もし数年前の彼が本当に狂っていたなら、とっくに世界も自分も滅ぼして、妻の後を追ってただろう】
【だから攻略者は全員失敗したんだ】
【だって、亡き妻は悪役さんの初恋(=理想)なんだから】
【彼の心の中にある唯一の聖域】
【誰にも、彼女の顔も立場も汚させない】
【だからあの“偽物”たちはみんな……壊された】
【――で、今そこにいるあの子は?】
【何の準備もされてない、特別なものもない、普通の女の子は?】
【いったい何日持つと思う?】
そして――彼らは、まるで賭けでも始めたかのようだった。
【次に悪役さんに会ったら、それが命日かもな】
【私もそれに一票】
【俺も乗った】
中には、あざ笑うようなコメントもあった。
【さっきの転倒、けっこう痛そうだったよな】
【雪も降ってきたし】
【この寒さを乗り切れるかどうかも怪しいんじゃ……】