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第16話

この世界に飛び込んで二ヶ月余り。

私が知り得た限りでは、神谷慎一は確かに亡き妻に対して深い愛情を抱いていた。

何十人もの先駆者が失敗したのも無理はない。

私の攻略の進捗は、雲をつかむようだった。


あの白い文字たちは、おそらく私の無能さを見抜いたのだろう。

今ではもう私を相手にせず、罵ることもなくなっていた。

私の存在は、神谷慎一と亡き妻の絆を壊しているように思えた。

私は過去を持たず、未来もないようだった。

それでも、この望み薄い攻略を続けるべきなのだろうか?


私はうつむきながら、深く考え込んでいた。

抱えている本は分厚く、視界の一部を遮っていた。

気づかずに本の角が、白いスーツドレスを着てコーヒーを持った美しい女性にぶつかってしまった。


コーヒーの大半は本にかかり、残りは目の前の女性の雪のように白い胸元に飛び散った。

私は本を拭きながら、女性に謝罪した。

女性の声はやや甲高く、眉をひそめて私の腕を掴んだ。

「誰があなたを入れたの?」


私は自分が階下の書店の者だと説明した。

女性は冷笑した。「社内の誰が、そんなちっぽけな書店と取引できるっていうの?」


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