ホテルの一室。
鏡の前に立ち、私はそっと額の血を拭き取った。
傷は思ったより深くて、一枚の絆創膏では到底隠しきれない。
でも、こんな時間に部屋の外へ出るのは怖くて、包帯を買いに行く勇気はなかった。
いつもなら、いくら眠っても眠り足りない私が、 今夜ばかりは傷のヒリヒリする痛みに眠れなかった。なぜ自分が海外に送られたのか、私はもう覚えていない。
ただ覚えているのは――子どもの頃から、姉のほうがずっと賢くて、ずっと優秀だったこと。姉がどこにいても、まるで体から光を放っているように、輝いていた。
だからこそ、父と母は彼女に最高の期待をかけた。
姉は小さい頃から子役をしていて、成長するにつれて「美人で頭のいい完璧女子」として人気を集め、注目の的になった。
一方の私は…… 姉と同じ顔立ちを持っているという以外、これといって取り柄がない。だから、両親が姉を優先することも理解できた。
優秀な子にこそ、たくさんの資源を注ぐべき――私は納得していた。
むしろ、当然のことだと思っていた。だけど――その偏愛が、私を海外へ追いやる理由になったのだろうか?
海外で薬を山ほど飲まされ、苦しい治療を受けていたとき――電話で母はこう言っていた。「これで鳴ちゃんも、もっと頭が良くなるから」
でも――私は今でも、確信が持てない。
むしろ帰国してからの私は、前よりもずっと頭の働きが鈍くなった気がする。ひたすら眠くて、反応も鈍くなってしまった。
――治療に失敗したから、私を仕方なく帰国させたのだろうか?
――私が、もっとバカになったから、彼らはますます私を嫌うようになったのだろうか?