その夜も、私は再び高熱を出した。
全身が痙攣し、顔は苦悶に歪み――
「やめてっ!もう殴らないで……お願い、許して……怖いよ、暗いのはもうイヤ……」
「麻酔、お願い、お願いだから……電気痙攣のとき、少しは痛くないように……」
「もう治療なんてしたくない……病気のままでいい。死んだほうがマシ……」
「ごめんなさい、ごめんなさい……もう、もう彼を愛したりしません……」
「お願いだから……死なせて……私、もう耐えられないの……」
――終わりの見えない漆黒の闇のなかで、
誰かが、私をそっと抱きしめた。
その腕は温かくて、まるで、私のすべての傷を包み込んでくれるようだった。
私はそのぬくもりにすがりたくなった。
でも……怖かった。それが、新たな
精神科医たちは、いつも私を試す。
優しい言葉や、温もりに見せかけた
少しでもそれに引き寄せられたら、その先に待っているのは、さらなる罰――
「まだ情愛を手放せないのか。やはり調教が足りない。薬の量を増やそう」
眼鏡をかけた医者が、冷たく告げる声が、脳内に木霊する。
分かっていた。全部、分かっていた。
なのに私は、その腕を振り払えなかった。
――私は、本当に病気なのかもしれない。
蛾のように、火に飛び込む。
偽物でも、本物でもいい。
ただ、温かさが欲しかった。止めようのない涙があふれた。
「もう……愛してなんかいないのに、どうしてまだ、こんな仕打ちを受けるの?」
「……時川徹、私は……もう、あなたを愛してないよ……」
「お願い、姉さんに言って……私を許してって……」
「ほんとに、ほんとに……あなたを見ても、心は動かない。だから、もう愛なんて、あるわけないじゃない……」
濡れた涙が、彼の肩に染み込んでいく。
その腕が、ピクリと震えた。
そして、私以上に激しく、震え始めた。
そして――
あの、冷徹でおそろしいはずの時川徹の声が、
今にも壊れそうな音で耳に届いた。
「……鳴……お前がこんなに苦しんでるのは、俺のせいか……?」
私は、混濁した意識のなかで、首をふった。
「……違うの……違うよ……」
「……私は……あなたが好きだからだ……」
「でも、もう分かったの。私の愛は……間違ってたの……」
彼の喉から、押し殺した嗚咽が漏れた。
その震えと音だけが、私の闇のなかに、微かな熱を残した。